新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

都会のハンター

 ドナルド・ハミルトンという作者の名前は、どこかで聞いた記憶がある。狙撃手とギャング風の男のイラスト、魅力的なタイトルなので買ってしまってから作者のことを調べてみた。ハミルトンは「マット・ヘルムシリーズ」の原作者だった。それで名前に記憶があったのかもしれない。

 

 「ジェームス・ボンド」ものがあたると、アメリカでも同様のアクションスパイもののTVドラマや映画が何種類か登場する。その双璧が「0011ナポレオン・ソロ」と「マット・ヘルム」だった。前者はロバート・ボーン(&デビット・マッカラム)主演で、後者はディーン・マーチン主演だった。ややコミカルなスパイものだった印象があるが、1955年発表の本書はまじめなハードボイルド小説だ。

 

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 ポール・ニキストは、ライフルから拳銃まで銃器を愛してやまない男。銃床にみごとな彫り物を入れる相棒と都会の片隅で銃器店を営む一方、狙撃の請負もする。暗黒街の顔役に依頼されて、選挙に臨もうとする現職知事を狙撃したのだが、発射直後に若い女に現場を見られてしまう。ポールの仕事を見届けるために一緒にいたチンピラが女を殺そうとするが、ポールは逆にチンピラを射殺して女と逃げる道を選ぶ。

 

 暗黒街の顔役は、現場を見られてしまった上に知事は重傷を負いながら生き残ったことに腹を立てポールとその女を追う。顔役はポールを容疑者から外すために身代わりを立ててアリバイを作ったうえ、知事を恨んでいる男を犯人に仕立てることまでする。はっきりはわからないが、警察内部にも協力者がいるようだ。

 

 ポールも含めて、都会のウラの顔を持つ男女の生態がなまなましい。また、ポールの銃器や弾丸に対する該博な知識には感心させられる。いわく、

 

 ・弾丸の装薬によって同じ銃でも性能が変わり、用途別の弾丸は自製に限る。

 ・西部劇でおなじみのコルトシングルアクションアーミーは役立たず。

 ・革ひも(スリング)は肩掛け用だけでなく、撃つときの銃の安定に役立つ。

 ・欧州戦線から兵士が持ち帰ったワルサーP38は、精度の高い名拳銃。

 ・威力のある拳銃ということなら、コルトガバメント1911が一番だ。

 ・狭い場所での最強の武器は、銃身を切り詰めたショットガン。

 

 ストーリーは割合平板なのだけれど、このようにちりばめられた言葉につられてあっという間に読み終わってしまった。