新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アマゾン流域、1938

 冒険小説のなかでも航空ものが得意な作者、ジャック・ヒギンズの初期の作品が本書(1971年発表)である。舞台は、第二次世界大戦直前のアマゾン流域中央のエリアである。まだ暗黒大陸と言ってもいい土地だった南米、その中でも地上からの人が簡単に出入りできないアマゾン中央エリアについて、作者は「神の最後の土地」と表している。この意味は、神が最後に作ったということで、それほど過酷なところだということだ。

 

 主人公はまだ23歳の若いパイロット、ニール・マロリー。イギリス人だがポルトガル語に堪能な上、冒険好きが高じて南米で航空輸送の仕事をしている。とはいえ整備十分な新鋭機などあろうはずもなく、旧式機に乗って嵐で遭難するところを第一次世界大戦のエースであるサム・ハナに救われる。

 

 サムは「レッド・バロン」ことフォン・リヒトホーフェンとも撃ち合ったという英雄で、アマゾンエリアで航空輸送業をしているのだが借金も多く手伝ってくれるパイロットを求めていた。サムのところで働き始めたニールだが、アマゾンに進出した修道院を(土地を奪われたと思う)原住民が襲って修道女たちを虐殺する事件が起きる。

 

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 政府側は反撃を決意、サムも政府にやとわれて原住民の部落への空爆をすることになり、ニールも騙されてその作戦に加わる。政府やサムたちは「原住民は害獣だから、人間とおもわなくてもいい」と皆殺しすることを主張するし、修道女を始め入植者に対する非道(とてもここで書く気になれません)もあって、攻撃は正当化される。しかしニールは、原住民も人間だと考え加担することを拒む。ニールがうるさくなったサムたちは、彼を罠にかけて地獄の収容所に送ろうとするのだが・・・。

 

 作者の飛行機に対する愛が随所に感じられる作品である。冒頭のオンボロのベル機に始まり、マニアックなブリストル・ファイターまで何種類もの小型機が登場する。特に2~3人しか乗れない、本来は戦闘機であるブリストル・ファイターがさいごのシーンで人命救助に役立つのは思いもかけないことだった。後年、面白い作品を多く残してくれたヒギンズの原点、この作品に集約されているかもしれません。