新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

血まみれのハロウィン

 本書(1988年発表)は、ご存じエド・マクベインの87分署シリーズの第40作目。1956年の「警官嫌い」で始まったシリーズは、1/3世紀を経て続いている。主人公の刑事たちは、ほとんど年も取らず昇進もしない。「時が止まった刑事部屋」である。

 

 このシリーズの特徴は、現実同様刑事部屋には複数の事件が同時に持ち込まれ、その進行が並行して描かれること。小説としては、複数の中・短編をより合わせたものと言えよう。今回の季節は秋も深まったハロウィン、街には仮装した子供たちが「Trick or Treat」と叫んで歩き回っている。

 

 ところが金髪女が運転する車から降りた4人のちび共が、酒屋に常套句を叫んで入ってきて、追い返そうとした主人を射殺したのだ。ちび共はキャッシュレジスターを漁り女の車で逃走した。さらに2時間後、別の店に扮装こそ違うが4人が押し入りまた発砲してカネを奪った。

 

 一方ハイスクールの出し物で奇術を披露していた奇術師が、弟子と共に失踪。残された奇術師の妻が、「カネのかかるトリックの道具を路上に置き去りにして失踪するなんてありえない」と誘拐ではないかと訴えてくる。また市内のゴミ箱から切断された白人男性の上半身が見つかる。両腕と頭部はなく、身元はわからない。

 

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 これだけでも十分錯綜しているのだが、クリング刑事の新しい恋人アイリーンは、連続売春婦殺人事件の容疑者を釣りだすための囮捜査に狩りだされた。すでに3人の売春婦が切り刻まれていて、一度ほおを斬られて整形手術もしたアイリーンは恐れながらも任務を引き受ける。

 

 さらに10年前に関わった看護婦が意味不明の電話に悩まされる件に首を突っ込むパーカー刑事、4人組のハイティーンギャングと渡り合う臆病者のジェネロ刑事など、目まぐるしくシーンが変わる。個々の事件はさほど複雑ではなくマニアには先が読めるのだが、意地悪なことに一番大きな事件は未解決のまま終わる。

 

 現実の刑事部屋同様、警官と悪者が撃ち合っても警官が撃たれることはあるし、未解決の事件も出る。作者にすれば、「リアルにこだわった」といいたいのだろうが、ちゃんとプロットを立てないで書き始め流れで書き上げた「書き流し」のような気もする。まあ懐かしい刑事たちに会えるのは嬉しいので、あと数冊残っているこのシリーズは大事に読みますけれどね。