新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

弁護士・探偵そして精神科医

 本書は正統派ハードボイルド作家、、ロス・マクドナルドの後期の作品(1969年発表)。大家だと思っていた作者だが、リュー・アーチャーものを18編、その他を6編しか発表していない。1949年「動く標的」でデビューした作者とアーチャー探偵、以前紹介した「ウィチャリー家の女」をはじめ、「人の死に行く道」「さむけ」などの名作で知られている。しかしこれは後年の評判であって、作家としての地位を不動にしたのは本書の発表前後だったようだ。

 

 本書のレビュー記事が、ニューヨークタイムズ・ブックレビューの第一面を飾ったのだ。これは権威あるレビューで、これまで探偵小説が一面に位置したことはなかった。当然ベストセラーになり、その後の作品「地中の男」「眠れる美女」「ブルー・ハンマー」は大変売れた。しかし作者はその3作を書き上げて亡くなる。

 

 僕自身は初期の作品も面白いと思っていたので、本書の解説にある「ベストセラー作家誕生となった作品」との言葉には違和感をもった。まあ、画家などは生きているうちは作品の値段は上がらないということもあるから、晩年にでも売れたのなら良しとすべきかもしれない。

 

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 さて本書だが「その心は深い悲しみに満ち溢れている」アーチャー探偵のところに弁護士トラットウェルから「依頼人チャーマーズ家から持ち去られた金の函を探し、取り返す」という依頼が入る。トラットウェル・チャーマーズ両家は先々代からの付き合いでいずれも法曹界の重鎮の家系、両家の息子と娘は婚約中でもある。

 

 チャーマーズ家の息子ニックは大学卒業を控えているが、失踪経験もあり精神が不安定だ。金の函を盗んだのはニックかもしれないと考えた両家は、警察沙汰にせず私立探偵を雇ったわけだ。アーチャーは難なく金の函のありかを突き止めるのだが、その後関係者が撃たれるなどの事件が頻発する。カギを握るニックは、長い付き合い精神科医が保護していてアーチャーは会わせてもらえない。弁護士・探偵・医師のすべてが守秘義務を持っていて、警察はニック周りの情報を得られず事件は膠着する。

 

 登場する家庭はすべて不幸を背負い、壊れている。元銀行家で横領によって破綻した老人やその娘の生態は悲惨だし、複雑な家庭事情が全編を覆う。そんな中を「孤高の騎士」アーチャーが事件の真相に迫るお話、さすがに面白かったです。でも、初期の作品からそんなに変わったとは思えませんけどね。