新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

海洋国家日本の再出発

 著者松村劭は元陸将補、在日米軍との共同作戦計画にも関わる一方、防衛研究所研究員も務め、英米の軍事研究機関との付き合いも深かった人だ。2010年に亡くなるのだが、35冊ほどの著作があり僕はその半分程度は読ませてもらった。陸自の人だが、海洋関係の著作が多い印象である。本書もそのひとつ、対馬海峡の歴史をたどりながら日本が半島とその後ろにある大陸とどう付き合うべきかを考えさせる書になっている。

 

 冒頭2002年の半島情勢が取り上げられているが、

 

米国:ブッシュ(子)政権

日本:小泉政権

韓国:盧泰愚政権

北朝鮮金正日政権

 

 だったのだが、今と変わらないことが多いのに驚かされる。つまり、

 

・米国は北朝鮮をどうしたいのか、韓国・日本の意思を確かめようとしている。

・日本の拉致問題は、北朝鮮が交渉に応じなければ打つ手(軍事力行使)がない。

・韓国は「血は水よりも濃い」として、米軍はいるが心は親北朝鮮。

北朝鮮核武装を宣言して、威嚇ばかりしている。

 

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 著者は、任那防衛戦、蒙古襲来、倭寇、秀吉の朝鮮出兵、日清・日露戦争から朝鮮戦争までを概括し、対馬海峡が非常に大きな意味を持つ場所であることを示す。この長い歴史の中で、普通は海洋国家と思われている日本が、本当にそうだった時期は短いと言う。今も、実は海洋国家ではないのだそうだ。もちろん大陸国家でもないわけだから、日本国は国際社会の重要な一員にはなっていないと言っているようにも思える。

 

 「海洋国家の防衛線は、海峡ではなく対岸の港湾のその背後にある」というのが常識。だから英国はベネルクス三国にナポレオンやヒトラーが侵攻すると怒るのだ。日本が海洋国家でありたいなら、釜山を影響下に置きその背後に軍事力を伴う防衛線を引けなくてはいけないと読むこともできる。現に、任那というのはそういう「国」だった。

 

 半島については先日呉善花韓国併合への道」を紹介したが、そこにもあったように李氏朝鮮は「軍事嫌悪症」だったと本書にもある。軍人の地位は低く、英雄李舜臣提督も無実の罪で一兵卒に落とされている。本書も、改めて半島との付き合い方を考えるいいヒントになる本だった。

 

 イージスアショア不採用や横田滋さんが亡くなったことから、急に憲法改正を含めた軍事力の議論が巻き起こっています。悪いことではないのですが、著者のような正しい歴史認識を持った人の意見を聴いてほしいと思います。それが21世紀の「海洋国家日本」の船出につながることを祈ります。