グレートブリテン島の南西の端、長い半島が大西洋めがけて突き出ているのがコーンウォール州。さらにその先端に近い町がペンザンスだ。トーマスクックの時刻表によれば、ロンドンからの距離は490km、特急で5時間かかるところ。文化的には古代ケルトの風習が根強く残り、よそ者が容易に溶け込めないところだという。
作者のジェイニー・ボライソーも、コーンウォール州の生まれ。未亡人探偵ローズを主人公にしたこのシリーズのほか、2作/年ほどのペースで作品を発表していると解説にある。邦訳は本書が初めて。
ローズ・トレヴェリヤンは、40歳代後半の画家兼写真家。大学卒業後コーンウォールの自然に魅かれて定住を決め、コーンウォールっ子のデイビッドと結婚した。20年間の夫婦生活は4年前デイビッドの病死で終わったが、ペンザンスの隣町ニューリンで一人暮らしている。画商をはじめ何人かの親友もいて、贅沢ではないが優雅な暮らしだ。
ある夏の日、ローズはロンドンからやってきて半年ばかり経つミルトン家に、写真を撮る仕事で呼ばれた。大きな邸宅に普段は夫人だけが住んでいて、週末はロンドンに在勤する夫や不動産屋をしている息子たちがやってくるのがミルトン家。半年では一家は町に馴染みは出来ていない。
汗が噴き出す季節だとあるが、ロンドンなどに比べればマウント湾を臨むニューリンの暑さなどしれたもの。陽光と咲き誇る花、海風などコーンウォールの自然描写が美しい。ミルトン夫人は家族が集まる週末に、近所の人を招いたパーティを企画する。ここが気に入った彼女は、家族と近所のコミュニティを結び付けようと考えたのだ。
ローズも呼ばれたそのパーティ、なんと夫人が2階のベランダから落ちて亡くなってしまった。突き落とされた可能性もありキャンボーンの街からピアース警部が派遣されてくる。40人もいた近所の人たちに動機は見当たらないが、夫、息子、息子の婚約者、夫の愛人など容疑者は一杯いる。死体の第一発見者はローズだったし、彼女の画家としての観察力を買ったピアース警部は、彼女を使って真犯人を探ろうと考えはじめる。
ミルトン夫妻は50歳代、ローズやピアース警部も含めて多くの登場人物は40~60歳。それでも人生100年時代なら、みんな青春真っ只中。恋も友情もあるライトミステリ、現代の英国の田舎の生活がよくわかる作品でした。続編も探してみますよ。