新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

米中デカップリング論前の予習

 先日フランスの文化人類学者トッド氏の、グローバリズムへの警鐘本を紹介した。本書もトッド氏の本と同じトランプ大統領誕生直前に発表されたもので、こちらは中国の課題を取り上げている。僕の母校名古屋大学は時々ノーベル賞受賞者は出るのだが、全部理系。文系学科の卒業生の存在感は希薄だが、本書の著者だけは別格の有名人である。

 

 尾張の国には丹羽郡というエリアがあり、この苗字も珍しくない。丹羽宇一郎氏は伊藤忠の会長から中国大使を務めた人。商社マン時代から、中国には多くの人脈をもっていたと本書にある。今米中デカップリング論が盛んだが、4年前とは言え中国の問題点と日本の付き合い方を知る好著と聞いて買ってきた。

 

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 まず中国自身の問題点としては、

 

◆拡大する格差問題、民族格差も、地域格差

 漢民族と55の少数民族からなっていて、小数民族への支援策が問題となる。30近い省と自治区、大都市間では成長率にも大きな差がある。格差解消に「腐敗対策」を行っているが効果には疑問符がつく。それでも貧困の撲滅は急務。

共産党一党支配という政治体制

 広大な地域ゆえ連邦制が望ましいが、それを運営するリテラシーが不十分。全人口の7%ほどの共産党員が全て(立法・司法・行政・軍事)を握っている。一党支配には限界があるが、現時点では突破口なし。

◆エネルギー、環境、食糧等の問題

 軍事クーデターが一番高いリスクだが、これらの課題も徐々に大きくなってきている。

 

 というわけで、それゆえ政権は国内引き締めのために外交でこわもてにならざるを得ないとある。今の南シナ海尖閣などの海洋覇権、香港やウィグルでの弾圧、インドとの国境紛争などは、国内引き締めのために起きたことと思われる。

 

 次に日本としての付き合い方だが、著者は日本は中国市場に出ていかなくてはならないと冒頭述べている。米国と切れても・・・とまでは書いていないが、隣国として大国として付き合わないという選択肢はないということだ。具体的な付き合い方として、

 

 現場に行き、信用できる中国人を見つければ50%は成功

 

 というのが商社時代からのコツだとある。それでも米国を超える覇権国になろうとする野望は明白で、米中間に不測の衝突はあり得るとある。本書から4年経って米中の実力はさらに接近しています。香港騒動や5Gセキュリティ問題もあります。もし機会があれば、現状のお考えを伺いたいものです。