新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

国分寺からの西武線沿線にて

 本書(2006年発表)も、深谷忠記の「壮&美緒シリーズ」の比較的後期の作品。以前「千曲川殺人悲歌」を紹介した時に、叙情の美しいトラベルミステリーと評したのだが本書もその流れである。ただ今回の舞台は、もう少し都会的なところだ。

 

 冒頭、美緒が仕事仲間のデザイナー千冬を、自宅兼仕事場のマンションに訪ねるシーンがある。その場所が国分寺、ここは若いころ僕が少し暮らした街である。美緒一家の住んでいる街は西荻窪だから、中央線沿線の便利なところということである。作者の住所は分からないが、どうもこのあたり(調布とか町田、八王子など)が小説中によく出てくるからお住まいはこの辺りかと・・・。

 

 閑話休題、千冬の姉沙織は国分寺から西武線で少し行った先の東大和に住んでいる。元々姉妹の父親は東大和の自宅と国分寺駅前のマンションを持っていて、姉妹はそれぞれの住居を相続したのだ。美緒が千冬との打ち合わせを終わって帰ろうとしたとき、沙織の夫から電話が入り沙織が刺殺されたと告げられる。そして(例によって)事件は、警視庁の真木田警部・勝部長刑事の班が担当することになる。

 

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 沙織の死体を発見したのは元プロ野球選手で、今は人材派遣会社社長の夫。彼は実家のある札幌に法事で出掛け、帰ってきたところだった。会社の専務である榎本もやってきたが、彼は前夜は小諸にいたと主張する。二人は北海道の高校で、同期の野球部員だった。警察は2人のアリバイを調べるが、どちらにも証人がいる。やがて捜査線上に高校の野球部後輩の男が浮上するが、この男にも高崎にいたというアリバイが・・・。

 

 行き詰った勝部長刑事は、西荻窪の美緒の家にやってきて名探偵壮とその「通訳兼調教師」である美緒に事件の謎を説明する。作者の長編はこのころすでに60冊を越えていて、およそ半分が「壮&美緒シリーズ」なので真木田班以外でも「名探偵黒江壮講師」の名前は知れ渡っている。そうはいっても警視庁の刑事が民間人宅で事件の捜査状況を話すなどは、ちょっと常識外れだ。

 

 以前「素人探偵の事件への関わり方」というコメントを書いているが、どうしてもこの辺りは気になる。アリバイ崩しの面白さは五分五分としても、その点でこのシリーズは津村秀介の「浦上伸介もの」に叶わないと思う。まあ、そんなことは気にせずに昔懐かしい国分寺から西武線沿線(多摩湖)気分を味わえばいいのかもしれませんがね。