新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ラスタファリー教徒の死

 本書は、英国の本格ミステリー作家コリン・デクスターのモース主任警部ものの1作。何作か紹介しているが、評価の難しいシリーズである。ロンドン近郊の警察署に持ち込まれる奇怪な事件を、独り者のモース主任警部と愛妻家のルイス巡査部長が解決していく物語である。

 

 捜査方法もストーリー展開も本格ものなのだが、英国風のちょっと気取った表現が鼻に付くこともある。昨年英国出張の時のディナーで、どんな作品を読むのかと聞かれてちょうどカバンに入っていた作者の名前を挙げたら「おー、日本人もなかなかツウだな」と結構受けた。英国では有名な作家のようだ。

 

 つつましやかな家庭を持っている中年夫婦、マーガレットとトムの間に不倫問題が持ち上がる。最初の1/4は彼女たちや他の夫婦の日常を描いて終るのだが、その年の年末3組の夫婦がホテル「ホーアス」でのニューイヤーパーティで出会うことになる。

 

 実は3組とも事情を抱えていて、偽名でホテル別館にチェックインする。そして大晦日の夜には大規模な仮装パーティがあり、優勝したのはジャマイカの民族衣装に身を包み黒人に見せるためのドーランを塗って現地のイスラム教であるラスタファリー教徒に扮した男だった。

 

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 ところが新年の元旦、別館三号室ではラスタファリー教徒の衣装のまま、男が殺されていた。その妻も、別館の別の部屋にいた2組の夫婦も姿を消してしまった。容疑者はこの5人に絞られるのだが、全員が偽名でチェックインし仮装もあって顔も十分見せていない。モース主任警部が休暇のところを呼び出され、この謎だらけの難事件を任されることになる。

 

 ルイス巡査部長の地道な聞き込みで、二号室のスミス夫婦というのは詐欺師コンビだということが分かる。徐々に謎は解けていくのだが、誰が誰に殺されたのかについては、最後の20ページになっても判然としない。

 

 名探偵のはずのモース主任警部はときおり鋭い推理をきらめかせるものの、ビールやウィスキーばかり飲んでいる。読後感としてはダラダラ捜査の後、後味の悪い解決を示された気分になった。英国人がこういう作風を好むことは確かなようですが、ちょっと理由を聞いてみることにしましょう。次の英国出張時に。