新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

東ドイツの共産原理主義

 名作「鷲は舞い降りた」などの冒険小説を書いたジャック・ヒギンズが、東西冷戦時代の東ドイツを舞台に「Mission Impossible」風の活劇を描いたのが本書(1978年発表)である。1963年の東西ドイツ国境、フロッセンの街では細々と東から西への亡命者に国境を抜けさせる工作が続いていた。

 

 <復活連盟>と呼ばれる地下組織は西側諸国だけでなくヴァチカンの支援も受けて、亡命希望者たちを保護していた。その中心人物はコンリン神父。なぜヴァチカンが支援するかと言うと、共産主義は一切の宗教を認めないからキリスト教信者が迫害されているからだ。共産主義の本家ロシアには「ロシア正教」という立派な流派があり公然と活動しているのに、なぜ東ドイツではキリスト教が認められないかと言うと、おそらくはドイツ人の生真面目さによるものだろう。そのため、ソ連よりも原理的な共産主義がこにはあったわけだ。

 

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 東ドイツ当局は「目の上の瘤」だったコンリン神父を罠にかけて捕らえ、フロッセンから東に50kmほどの古い城館ノイシュタット城に幽閉する。さらに「洗脳」を得意とするヴァン・ビューレンという(アメリカ人の!)心理学者を派遣して、西側の工作を公の場でコンリン神父に告白させようとする。それも近々に迫ったケネディ米国大統領のベルリン訪問に合わせて・・・。

 

 トランプ大統領なら訪独中に自国のスパイ工作が暴露されても、一顧だにしないだろうがこの場合は違う。西側とヴァチカンは、英国特殊部隊出身のヴォーン少佐にケネディ訪独までにコンリン神父を奪還するよう依頼した。

 

 ヒギンズの冒険小説には、脇役としてだが興味深いアイテムがよく登場する。本書では第二次世界大戦のエースパイロットが乗るシュトルヒ偵察機が、神父を西側に運ぶ重要な役割を担う。表紙の絵にもあるナチスドイツの優秀な偵察機だった本機は、低空・低速での運動性が高く、ミグ戦闘機に追われてもこれを低空に引きずりおろして失速させ墜落させてしまう。パイロットいわく、「先の大戦で死んだパイロットの半分は、エンジン故障や操縦ミスで死んだ。敵機に落とされたのは半分だけだ」という。

 

 また歴戦の士官ヴォーン少佐はいよいよ奪回作戦開始の時に、「あとは成り行き任せ、もはやゲームが我々を動かすのだ」という。「一発目の銃声の後まで続く作戦はない」と言った作戦参謀がいるが、実戦経験がないと言えない言葉だと思う。作者の戦う男の物語、今回も堪能しました。