新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

はぐれ刑事八木沢庄一郎

 作者の大谷羊太郎は、大学在学中プロミュージシャンとしてデビューし、克美しげるのマネージャーもしていた。4度の江戸川乱歩賞挑戦で、「殺意の演奏」(1970年)でついに受賞。社会派ミステリーが主流だった時代に、トリックを前面に出した本格ミステリーの旗手として多くの作品を残した。

 

 非常な多作家であり、長編の総数は120冊にも及ぶ。初期のころは音楽界・芸能界の経験を生かした作品が多く、後半はサスペンス調のものが多くなった。本書はちょうど中期、警視庁捜査一課のはぐれ刑事八木沢庄一郎を探偵役にした作品である。

 

 2時間ドラマの原作に好適な作品群だと思うのだが、実際には八木沢刑事もの4編がTVドラマになっているだけだ。「越後七浦殺人海岸」もそのうちの1編として放映されている。僕は見た記憶はないのだが、名優植木等が八木沢刑事を演じている。

 

 不動産会社を営む居差寺要造の世田谷の自宅で、身元不明の死体が見つかった。家政婦が3日間の休暇から戻って見つけたもので、要造のベッドで要造の寝巻を着て死んでいた。70歳を過ぎた要造は行方不明、30歳になったばかりの若妻亜以子は旅行で不在にしていた。警察の捜査で、死体は中里という八王子に住む男と分かったが、中里の借家では要造が中里のベッドで中里の寝巻を着て死んでいた。

 

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 「交換殺人」というのは殺したい相手を取り換えて殺し動機をもった人物はアリバイを作っておくという話だが、今回の事件は場所が交換された二重殺人事件ということになる。中里には身寄りがなく、捜査陣は莫大な遺産を相続すると思われる若い後妻亜以子を容疑者の筆頭において捜査を進める。知り合いの奥様たちと熱海旅行に行っていたというアリバイが亜以子にはあるのだが、彼女と母親の雪子には複数の殺人事件に関わり合ったという過去があった。

 

 捜査一課河津警部をチーフとする殺人班で、一匹狼的な動きで知られるのが八木沢刑事。警部黙認でチームプレーに参加しないのだが、コンビを組まされた若い村岡刑事は、無口だが情にあふれた性格の彼に多くを学ぶようになる。

 

 最初は「旅情ミステリー」と思って買ったのですが、大仕掛けのトリックを使った本格作品でした。もちろん社会派の色もあって、DVからみの男女のもつれがテーマになっています。多作家の割には見かけることに少なくなった作者の作品、これからも探してみましょう。