新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

現代情報戦の参考書

 IT産業に身を置きながらもシミュレーションゲーム好きで軍事ヲタク指向を持っていた僕は、どうしても「情報戦・諜報戦」に興味を持つことになる。仕事の場で軍事知識が役立った最初が「湾岸戦争」、海外ビジネスにちょっとだけ絡んでいたので開戦時期やその後の状況などについて情報収集をしていた。

 

 その時TVの政治番組によく出演し、僕からみるとやや好戦的な解説者だとの印象を持ったのが本書の著者江畑謙介。そのユニークな髪形で、お茶の間でも人気だったという。本書(2004年発表)は、9・11やイラク戦争も終わり北朝鮮のミサイル問題が大きくなっていたころ手に入れたもの。デジタル政策に首を突っ込んでいたので、

 

・DATA

・Information

・Intelligence

 

 と「情報」には3つの意味があることは理解していた。その違いや組織内での扱い方を、軍事的な事例で勉強させてもらったのが本書である。このころには、デジタル政策と軍事施策が本格的に交わり始めていたのだ。

 

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 かつては諜報手段は、人的なもの(Humint)と通信傍受(Sigint)くらいだったが1999年に高解像度衛星が実用化されて画像情報(Imint)が使えるようになった。またSigintの範囲もインターネットの拡大で爆発的に広がった。

 

 したがって情報機関が入手できる情報量も膨大になったが、課題は分析や評価が十分にできるかということになる。そもそも情報機関が収集する情報の99%は公開情報だとも言われ、収集については「集めすぎ」が問題視されていた。「DATA」は全く整理されていない符号の羅列に過ぎない。これを整理して体系化してようやく「Information」になるが、まだ役に立たない。裏が取れてタイムリーな「Intelligence」になって初めて意味を持つということだ。

 

 本書では、イラク戦争前にサダム・フセイン大量破壊兵器を持っていることを誰も疑わなかったことを取り上げ、誤った情報は国策を誤らせると示している。本書の後半は北朝鮮の戦力についての分析で、簡単に言うと「大きな脅威ではない」と冷静な対応を日本国民に求めている。この分析手法や考え方は、現在の我々にも十分示唆に富むものである。

 

 米中対立でキナ臭くなってきた現代、この書に立ち返る必要があると思って読み返してみました。