新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

小噺風ミステリー

 本書は独特な作風で知られるドナルド・E・ウェストレイクの短編集、「奇妙な味」の短編ミステリーを中心に13編が収められている。1978年の発表だが、内容は時間や洋の東西を越えたもので、現代の東京に置き換えても(携帯電話・スマホを除いては)そのままミステリーとして成立するだろう。

 

 3編だけ、少し長め(40~50ページ)で各々シリーズものの1編である。「Elefant Blues」はTVドラマ「サンセット77」のシナリオのひとつだったらしい。スチュアート・ベイリーのパートナーである私立探偵ジェフ・スチュアートが動物を使うサーカスで起きた「動物連続殺害事件」を追う話しだ。他の2編は、ウェストレイクのレギュラー探偵である私立探偵エド・ジョンソンと刑事レヴィンが主役だ。これらはちゃんとした謎解き/デテクティブものだ。

 

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 その他の10編は20ページ以下のショートショートに近いもの。いずれも犯罪を企画するか犯す羽目になった男女の、意外な結末(オチともいう)を最終行で示したものだ。表題の「Just One of Those Days」は、秒の単位まできめこまかく計画した銀行強盗が、街を挙げてのイベントで決行日を1日遅らせたことによる計画の破綻を描いている。邦題は「最悪の日」となっているが、適切な翻訳だと思う。

 

 近所づきあいのない高層ビルに住んでいる夫婦、大西洋の船便に乗るビジネスマン、高齢の夫を介護する若い妻、経営者の不正を知ってしまったサラリーマン・・・など普通の市政の人たちが事件に巻き込まれたり、意外な事態に遭遇して運命を狂わせていくのだが、カタストロフィは最後の1行でやってくるというのが才人ウェストレイクの技である。

 

 面白かったのだけれど、翻訳本の題名にはちょっと意義あり。ほとんどの犯罪は成功しないので、これを読んで犯罪に走る人は少ないだろう。「犯罪学講座」とは言えないのではないか。まあ、犯罪に手を染めさせない反面教師としての「講座」というなら分からなくもないですが。