新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

大統領というストレスフルな商売

 本書(2000年発表)は、トム・クランシーがスティーヴ・ピチェニックと共著した「オプ・センターもの」の第七作。以前紹介した「国連制圧」の次作にあたる。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/03/14/000000

 

 「国家危機管理」を目的に作られたオプ・センターだが、既存組織(CIA、NSA他)との縄張り争いや複雑化する国際情勢の中で、ポール・フッド長官のストレスは増す一方だった。愛する家族のこともあり前作で長官を辞任する意向を固めたポールだが、事件解決の後復職を決意する。本書は、再度オプ・センターの指揮を執ることになったポールの最初の試練である。

 

 主な舞台は2つ。一つはカスピ海バクー油田旧ソ連で今はアゼルバイジャン共和国の最大の産品である石油を生むコンビナートだ。カスピ海は広くて、ロシアも南の石油王国イランも権益を持っている。そこに英国系のテロリスト、ハープナー(銛打ち師)とあだ名される男がやってくる。彼はまずイランの石油基地を破壊、カスピ海の緊張を高める。その一方で彼はCIAのアセットにも攻撃を加え、地域の米国の諜報網を無力化する。

 

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 そのころもう一つの舞台ホワイトハウスでは、大統領夫人が夫の落ち着かない表情や行動に気づいていた。何か良くないことが起こると考えた彼女は、ポールを呼んで夫のストレスの原因を探ろうとする。すると、ホワイトハウス内部で重大な背任・国家転覆の陰謀が進んでいる可能性が浮上する。

 

 カスピ海では、イラン・アゼルバイジャンにロシアも絡めた紛争を起こそうとするハープナー一味と、それを阻止しようとする米露共同の諜報戦が繰り広げられる。シリーズ第二作で紹介された「ロシアのオプ・センター」セルゲイ・オロコフの存在感が大きい。セルゲイとポールの間には、同種の人間としてのシンパシーがあり共同作戦が可能になったのだ。

 

 ホワイトハウスでは、大統領を巡る陰謀が続く。精神科医であるピチェニックが貢献したとしたら、この部分だろう。片方は大統領にストレスをかけ、他方はそれを察知して大統領を救おうとする。大統領夫人の信頼を得て、ポールはホワイトハウスを巡る陰謀に迫る。

 

 本書に登場するローレンス大統領は、非常に鋭敏な人物ゆえ陰謀に利用されそうになります。誰かローレンス氏のように高潔な人物を、現実のホワイトハウスに招聘してくれませんかね?