以前日露戦争当時のロシアロマノフ王朝に対する破壊工作を指揮した、明石元二郎大佐の活躍を紹介した。太平洋戦争後、日本人は情報戦についての知識が欠如していると評されるが、情報戦に限らず軍事力を持たないとする憲法がある国なので、致し方あるまい。
愚痴はさておき、昨今の「サイバー戦争」とも言える情勢を見ていると、どうしても情報戦について多くの市民がリテラシーを持たないといけないという危機感は募る。そこで15年ほど前買った本だが、本書を再読してみた。著者の大森義夫は、警察畑の官僚。1993年から1997年まで内閣情報調査室(内調)長を務めた。
本書は著者の経験から、インテリジェンスの基礎や内調の仕事ぶり、そのころ見聞きした話を書ける範囲で記してある。中には橋本総理の身辺に中国人女スパイの影がちらついたというきわどい話もあるが、本来主張したかったことは「対外情報庁」を創設して国家のインテリジェンス能力を磨きたいということ。
「情報」にはいくつもの種類があることを、本書で学んだ。
・OSINT オープソースに拠るもの(例:公共放送、新聞)
・SIGINT 通信情報に拠るもの
・IMINT 画像情報に拠るもの
・MASINT 測定/特定情報に拠るもの(例:土壌汚染の分布)
・HUMINT 人的資源(スパイ)に拠るもの
本書(2005年発表)でも、SIGINTが主流になってきているとあるが、15年経った今はこれがけた違いに大きくなっていることは別ブログでも報告している。
https://nicky-akira.hatenablog.com/entry/2020/04/09/140000
著者の主張は、英国のMI6に相当する対外情報を集約する機関の設立だ。上記のような多くの情報を得る日本政府の機関は複数あり、その連携は不十分だというのがその提案理由。対外情報庁長官は政府中枢に直結した、情報機関の総元締めでなくてはならないという。加えて国家安全保障会議(NSC)を設立して、そこに対外情報庁TOPを統幕議長と並んで加入させよともある。
面白かったのは、このような活動をする人間の資格として「カネの透明性を確保できる」と言っていること。そういえば明石大佐も100万円の活動資金の支出明細を詳細に残し、残金20万円あまりを国庫にちゃんと返納していますよね。