作者のスコット・プラットは本書(2008年)がデビュー作。新聞記者やコラムニストから弁護士に転じ、7年間刑事弁護士を務めた。その後子供のころから成りたかった作家になったという経歴。米国には日本の人口比で補正しても、10倍ほどの弁護士がいるという。単に弁護士資格を持っているだけでは生活できないことも多く、XXが得意な弁護士でないといけないらしい。本書を読むと、そのビジネス実態や苦悩がよくわかる。
主人公の「わたし」ことディラード弁護士は、40歳。テネシー州の田舎町で、幼馴染の妻と思春期を迎えた息子・娘の4人暮らし。近隣の群部で起きる事件を含め、弁護案件が次々に持ち込まれる。ディラードは高校生のころから法曹界にあこがれ、高校を出てまず兵役に就きレンジャー部隊員としてグレナダで実戦を経験して除隊。その後ロースクールを経て弁護士資格を取った。しかし地方検察庁の検事補などの給料の安さに愕然として弁護事務所を開くことになる。
妻のキャサリンが職を持っているからいいようなものの、4人家族の生活は楽とは言えない。日々のクライアント(被告人のこと)の中に、あまりまともなものはいない。麻薬中毒・異常性愛・わけもなく暴力をふるうもの等々。これを取り締まり裁く側も決してイノセントではない。ディラードは作中でこう独白する。「僕は10年間嘘と欺瞞の世界をほっつき歩いてきた。誠意なんてどこにもない。(有罪をとられるか無罪をとるかの)単なるゲームでしかない。最もうまいウソをつくものが勝利する。それを司法制度と言う」。だから彼は早く資金を貯めて、ヤクザな司法界から足を洗いたいと思っている「いやいや弁護士」なのだ。
メインの事件は、いかがわしいバーに来た牧師が、ウェイトレスを連れ出した先のホテルで刺殺され、局部が切り取られるという猟奇事件。逮捕された新人のウェイトレスは無罪だと感じたディラードは、高額報酬もあって事件の弁護を引き受ける。だがその事件の審理が進む間にもディラードの持つ事件がいくつも並行して進んでいく。素直になったと見せて逃亡して、関係者を殺しまくる被告人までいる。
とても面白いリーガル・サスペンスでよく練られたストーリーだが、それよりも米国の犯罪・捜査・裁判とそれにかかわる人たちの生態をヴィヴィッドに描いたところが素晴らしいと思う。この作者の作品は探してみる価値はありますね。