新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

汎用AIが登場した後の経済政策

 AI(人工知能)は技術として急速な発展を見せている。かつてチェッカーやチェスではコンピュータが人間のプロに勝てても、将棋ましてや囲碁では難しいとされていたが、今は最難関のゲーム囲碁でのプロ棋士がAIに負け、囲碁界に「AIブーム」を巻き起こしている。

 

 実体経済の中でも囲碁AIのような「特化型AI」の研究開発から実用化は進んでいて、いろいろな分野での生産性向上は成されている。しかし今研究者が本腰を入れているのは、人間と同じかそれ以上の働きをする「汎用AI」。「特化型AI」は入り口か練習問題に過ぎず、こちらが本命だと考える研究者がほとんどである。

 

 「汎用AI」の一応の完成は2030年ごろと予想されているが、そうなれば生産性向上だけではなく、人間の労働の対部分を代替えし経済構造を変革すると見られている。これまでの機械化や自動化によって、肉体労働者が頭脳労働者に代わっていったよりも、もっと大きな変革になると筆者は言う。筆者(井上智洋准教授)はAI技術者ではなくマクロ経済学者、本書は技術によって変革される社会とその中で人間が人間らしく生きられるような制度を考え本書で提案している。

 

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 本書にある試算では、2030年から始まった汎用AIとロボット導入による「第四次産業革命」は2045年までに普及が終わり、多くの人間の仕事を代替えするようになる。もちろん創造的な仕事や大局のマネジメントなどに携わる人は仕事を続けるが、それは全人口の10%で十分と考えられる。

 

 社会全体がそうなった時、一部の人だけが豊かになって大多数は失業し貧困にあえぐディストピアになるリスクがある。これを、全ての人が働かなくても人生をエンジョイできるユートピアに変えるにはというのが、経済学者たる筆者のテーマ。答えは「COVID-19」騒ぎでも諸国で検討されたというベーシック・インカム(BI)である。

 

 「お金を刷れ、みんなに配れ、まず100兆円、つづいて100兆円」と主張した政党もあったが、それではハイパーインフレを招くと批判した識者も多い。筆者の提案は、

 

・すべての人に7万円/月の給付、必要な予算は年間100兆円ほど

・うち36兆円は生活保護等の廃止で、残り64兆円を所得増税で賄う

 

 というもの。国境を越える富の移動に言及していないなど悩みどころはあるのですが、ひとつの見識だと思われます。AIと並んでBIの議論、これから勉強が要りますね。