新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ホークという男

 2005年発表の本書は、ロバート・B・パーカーのスペンサーものの32作目。1973年「ゴッドウルフの行方」でデビューしたボストンのちょっとヤクザな私立探偵の活躍も、30年以上に渡っている。恋人スーザンに去られてしまったり、灰色の男(Gray Man)に撃たれて瀕死の重傷を負ったこともあるが、愛犬パールやスーザンと贅沢ではないが優雅な日々を送っている。

 

 撃たれたスペンサーを助けたのが、相棒の屈強な黒人ガンマンであるホーク。本書は不死身の男だったホークが、背中を3発撃たれて瀕死の重傷を負ったところから始まる。ボストンの黒人ギャング組織の縄張りにウクライナ人の暴力集団が入り込んできて、ホークはその抗争に巻き込まれたのだ。

 

 徐々に回復するホークはウクライナ人たちへの復讐を誓うが、スペンサーが調べたところ単純な縄張り争いではないことが分かる。ボストン近郊の街マーシュボートにウクライナ人の大きな組織があり、市長も一枚噛んでいるようだ。黒人ギャングの資金源であるカジノと大麻にも、ウクライナ組織の手が伸びている。

 

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 ホークとスペンサーはウクライナ人組織をまとめて叩き潰すため、黒人ギャングの幹部レナードとガンマン仲間のモリスに加えウクライナ語の話せる男を探す。やってきたのはかつてスペンサーを撃った男だった。

 

 本書ではいつも冷静沈着、Machineのような凄腕ガンマンであるホークの、過去や内面も語られる。スペンサーはホークの恋人である外科医セシルに「彼は愛のない環境で育った。人を愛することをしらない」と言う。ホークの挙動はマイロン・ボライターの相棒ウィンを思わせる。ホークは黒人の大男で貧民街育ち、ウィンは白人の大富豪で中背やせ型とタイプは違うが、共に眉一つ動かさず目の前の相手を射殺できる。

 

 スペンサーものは米国でTVドラマや映画化されたこともあるらしい。TVドラマからはスピンアウトで「ホークという男」というTVドラマも13話制作されABC-TVで放映された。「相棒」からスピンアウトした「米沢守の事件簿」のようなものである。

 

 アフガニスタン経由の大麻密輸ルートや市庁舎全部を仕切ってしまうウクライナ人組織など大きな仕掛けがあるわりには、解決はあっさりしている。ホークも、抗争で両親と兄を失った幼子の仮親になって事件の幕を引く。さてホークの愛ある家庭はできるのでしょうか?