新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

二つのコンドミニアム

 ABC・・・順にタイトルを付けていった、スー・グラフトンの第二作が本書。デビュー作から3年を経た、1985年の発表である。主人公は、南カリフォルニアの架空の街サンタ・テレサに住む女私立探偵キンジー・ミルホーン、32歳。健康に気づかいジョギングなどに余念がないものの、抜群の拳銃の腕も東洋の体術も持ち合わせてはいない。

 

 警察学校で受けた教育と、数年この街でひとりで経験した事件捜査の感くらいしか、彼女の取柄といえるものはない。そんな彼女のもとには、いろいろ風変わりな依頼人がやってくる。今回は、半年ほど連絡が取れない姉を探してくれと言う依頼。姉のエレインは、カリフォルニアのコンドミニアムに住んでいて、フロリダにあるもうひとつのコンドミニアムで半年を過ごすという優雅な日々を送っている。

 

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 生活に困らない資産を持つ彼女だが、決して社交的ではない。両方の住まいの付近にときおりブリッジをする女友達がいるだけだ。半年前、数少ないカリフォルニアの女友達が殺され、ガソリンをかけられて焼かれた翌日、彼女はフロリダに旅立ち消息を絶った。フロリダの住まいにはエレインの友達を名乗る女が居座っていて、エレインは到着早々どこかに行ってしまったという。

 

 何度か二つのコンドミニアムを往復して、聞き込みや部屋の調査をするキンジーに、多くの高齢者が力を貸してくれる。クロスワード作りの達人ヘンリーは、キンジーの大家として、エレインのフロリダの友人ジュリアはキンジーの替わりに見張りまでする。

 

 確かに貧しい人もいるものの、中産階級が十分豊かだった時代のアメリカの田舎町の生態がリアルである。麻薬を扱うアルバイトをしている高校生や、DVをふるう酔いどれ女なども出てくるが、近年の絶望的な暗黒街を描くロバート・B・パーカーの諸作などとは一線を画する。

 

 魅力的ではあるがスーパースターではなく、悩み・怯え・嘘もつく生身の女探偵キンジーが追うのは、普通の市井の事件だ。作り物としてのミステリーではない物語の中に、本格の謎解きを融合させたのがこのシリーズの特徴と思う。本書はアメリカ私立探偵作家クラブ賞などを受賞した、ある意味作者の代表作でした。