新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

プロたちの「Private War」

 本書(2000年発表)は先月「トロイの馬」を紹介した、J・C・ポロックのアクション小説。レギュラー主人公を持たない作品集だから、本書の主人公は元デルタフォース隊員のベン・スタフォード。例によってふんだんに戦闘シーンや軍用兵器が登場する。これまではソ連など敵性国家が相手だったが、本書では米国の「獅子身中の虫」が敵役である。

 

 イラクなどで闘い今は賞金稼ぎをして暮らすベンは、久々の休暇を米国国境近くのカナダの山岳・湖沼地帯でキャンプをして過ごしていた。相棒は元戦友のエド。ところが明日帰国という日、彼らの目前でプライベートジェットが墜落した。生存者はなくベンは3つのバッグの中に2,000万ドルの大金を見つける。ベンには退院のメドが立たない娘がいて、エドは借金まみれ。付近には誰もおらず、二人は迷いながらもネコババを決め込む。

 

 しかし、遠く衛星からCIAが二人の様子を見ていた。実はこのカネは、CIA幹部が作ったニセ札で麻薬組織でロンダリングすることで裏工作費用にしたり、私腹を肥やしていたものだ。CIAは難なく二人の身元を調べ、各々3名づつの殺し屋を送ってカネを取り返し口をふさごうとする。ベンは3人を返り討ちにするが、エドは殺されてしまった。しかしそこにエドの妹ジャネットが駆け付け、一人の殺し屋を射殺する。ベンとジャネットはエドの復讐を誓うのだが、CIAの殺し屋は何度も襲ってくる。

 

        f:id:nicky-akira:20200811200233j:plain

 

 元デルタのベンはともかく、DEA(麻薬取締局)の潜入捜査員だったというジャネットの戦闘力もすさまじい。世界中で計算すると、食料を買うカネより麻薬を買うカネの方が多いとの言葉もあり、麻薬組織との闘いは日本では想像できないほど過酷なもの。ジャネットは、NCISのジヴァ捜査官並みの射撃・格闘・拷問・変装術を持っている。

 

 二人は、CAR-15や戦闘ショットガンを持って山荘に籠る。CIAの暗殺部隊はAK-47にクレイモア地雷、スティンガーまで持ち出して迫る。CIAの陰謀に気づいたシークレットサービスはM-16装備の戦闘部隊を送ってくる・・・。

 

 ポロックの描くヒーロー(&ヒロイン)はほとんどが「私兵」、組織のためでなく自らの怒りや復讐心で闘う。解説によれば愛国心・忠誠心などが薄れ、軍隊というピラミッドが崩れ始めているらしい。本書はポロックの最高傑作と思います。もう書棚に未読作品が残っていないのが残念です。