新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

地金(ちきん)再編への道

 菅政権の大目標のひとつ「地銀再編」、確かに地域金融機関は多すぎるので昔から統合再編を推す声は多かった。かつて1ダースほどあった都銀は3つのメガバンクに20年以上前に再編されている。この流れは、地銀・第二地銀信金・信組へとピラミッドを降りていくと僕は思っていた。しかしその動きは「遅々として進んでいる」程度に留まっている。本書はその実態を赤裸々に記したもので、2017年に出版されている。

 

 かつて500以上の金融機関があった英国では一桁少ない数に再編されているというのに、日本では筆者が地域金融機関(地金)と呼ぶメガバンク等を除いた金融機関が500以上残っている。預金総額2,000憶円を超える大手すら、250以上もあるのだ。

 

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 ではなぜ進まないのか、本書では最初に「独禁法」を理由に挙げている。2017年に長崎の十八銀行がふくおかFGに入ろうとして、頓挫したケースが例示されている。ふくおかFGには同じ長崎県親和銀行が入っていて、両者を合わせると長崎県内ではシェア70%にもなることが問題視された。独禁法は35%以上のシェアになるケースだと首をもたげるらしいが、きちんとした線引きがあるわけではない。ふくおかFGは福岡県や佐賀県に地盤を持つ銀行も入っているので、九州北部という領域なら35%は越えないと楽観視していたらしい。

 

 これもおかしな話で、かつては、

 

・都銀 日本全国

・地銀、第二地銀 都道府県内

信金、信組 市町村内

 

 という営業範囲の規定があったが、いまや信金が海外に撃って出ることもある。長崎県内で35%を越えたから再編を許さぬというのがまかり通れば、A信金とB信組が合併すると人口600名のC村でシェア50%になるからNGなどということになりかねない。

 

 加えて都銀を頂点としてピラミッドは崩壊しているのに、意識だけは残っているのも再編の障害だと筆者は言う。「ウチは腐っても第二地銀、資金量で劣るとはいえ、信金などに吸収されてたまるか」と言うケースのことだ。さらにピラミッドの底辺信金・信組は、株式会社ではなく出資金でスタートするから、わずか一口の出資で理事長を務め人事を握り、世襲化するところも多いという。

 

 総じて「地金」は資本主義の洗礼以前の状態にあるという筆者の主張は、至極もっともでした。さて菅政権ではどうやってこの難題を片付けてくれるのでしょうか?