新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

親子探偵のモデル?

 作者のマージェリー・アリンガムは、アガサ・クリスティーやドロシー・L・セイヤーズと並ぶ1920年代からの英国女流ミステリー作家。10歳代のころから冒険小説を書いていたということだが、長編ミステリーとしては1928年発表の本書がデビュー作。以後1968年に遺稿をもとに夫が完成させた「Cargo of Eagles」まで、約30冊の長編ミステリーを残した。

 

 アリンガムのレギュラー探偵と言えばアルバート・キャンピオンが有名だが、彼は第二作「The Black Dudley Murder」で登場するので本書ではスコットランド・ヤードのW・T・チャロナー警部とその息子ジェリーが探偵役を務める。

 

 事件はケント州の田舎町、自家用車で旅行中のジェリーは、重い荷物を運んでいる美しい娘ノーラを「ホワイトコテージ」と呼ばれる彼女の家まで送るのだが、そこでは隣家「砂丘邸」の主クラウザーが自らの散弾銃で射殺されていた。駆け付けた警官と共に現場保全をしたジェリーは、ヤードの「猟犬」こと父親のチャロナー警部を呼び出すよう現地警察に薦める。

 

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 被害者のクラウザーは5~6年前に「砂丘邸」に引っ越してきたのだが、誰一人良いことを言わない鼻つまみ者。住み込みの近侍はチャロナー警部も見知っている前科者、近侍や料理人含めて死者の事は全員が「悪魔」だという。隣家の「ホウィトコテージ」でも、車椅子の傷痍軍人クリステンセン氏はじめ全員が蛇蝎のごとく嫌っている。そんな彼が、自分の散弾銃で撃たれて死んだのだ。

 

 本書は作者23歳の時の作品、警察機構についての知識が不足していたせいなのか、現地警察もだがチャロナー父子もちょっとあり得ない捜査を展開する。現場に居合わせた息子と関係者の聞き込みや証拠調べをするチャロナー警部にも驚いたが、容疑者や関係者がフランスからイタリアに去ったものを、2人で追いかけていくというのも凄まじい。解説では、格調高い文章に加え、ユーモア・推理・結末の意外性とすべてが一級品とある。

 

 文体はともかく、その他は納得できませんでした。それでも親子の探偵といえばリチャード&エラリー・クイーンを思い出させます。若きクイーンが探偵役の設定に悩んで本書を読み、クイーン警視と息子の作家エラリーを生んだのではないかと思いました。本書は初訳、まだ隠れたミステリーで日本に紹介されていないものもあるのですね。