新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「Domestic Mystery」登場

 なんと訳したらいいのだろうか?本書は1989年発表なのだが、主婦の日常や家庭内での事件を扱うミステリーのことらしく、この頃から徐々に増えてきたと解説にある。「日常ミステリ」とか「家庭ミステリ」と訳すべきかと訳者は言うが、「井戸端会議ミステリ」くらいが適当なのかもしれない。

 

 本書でアガサ賞最優秀処女長編賞などを受賞したジル・チャーチルの経歴はよくわかっていない。少女時代からミステリー好き、ディクスン・カーからもらった手紙が今でも彼女の宝物らしい。創元社から翻訳ものが6作出版されていて、先日Book-offで2冊買ってきた。表紙から見てユーモアミステリーだと思ったのだが、本格色も強い作品ですぐに読み終わってしまった。

 

 最近夫を事故で亡くし、高校生を筆頭に3人の子供を育てるジェーンは、住宅街の一角に住んでいる。幸い夫が遺した事業からの収入があるので中流の暮らしはできているわけだ。近所の奥さんたちとは、子供の送り迎えなどを助け合ったり食事に招き合うなど良好な近所付き合いをしている。この日は特に仲のいいシェリイの家でのパーティの準備に忙しい。

 

        f:id:nicky-akira:20200514112913j:plain

 

 ジェーンは人参サラダを担当し、食材探しにスーパーを車で駆け回っている。他の6人の奥様も、パスタや肉料理、サラダなどを作ってシェリイの家に運んでくる。ところがシェリイが外出から戻ってみると、その日に来てくれたヘルパー(掃除婦)さんが絞殺されていた。

 

 いつもは彼女たちの家を曜日代わりで掃除に来てくれる担当のイーディスの具合が悪くて、代わりの人が来て犠牲になった。イーディスの評判は8人の主婦の間でも二極に別れ、ジェーン自身は快く思っていない。ひょっとすると被害者はイーディスと間違って殺されたのでは・・・警察の動きが見えない中、ジェーンとシェリイは素人探偵を気取って犯人探しを始める。というのは、犯人はパーティに集まるはずの8人の中にいる公算が高いからだ。

 

 勝手なことをいう子供たち、不愛想なスーパーの店員、子供会での親同士の軋轢、ご近所同士の羨望や嫉妬・・・普通の主婦の日常を背景に、事件はスピーディな展開を見せる。いろいろな料理のコツや家電の使い方など、妙に細かな描写もある。

 

 最後の解決方法には無理があり、ひねた読者には分かりやすいのですが、立派な「Who done it?」ミステリーでした。2冊目もなるべく早く読むようにします。