新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「漫才コンビ」再結成の裏で

 以前「視聴率の殺人」「ホッグ連続殺人」「ピンク・エンジェル」を紹介した、W・L・デアンドリアの第四作が本書(1981年発表)。2作間をあけて、メディア大手<ネットワーク>の特別企画担当役員マット・コブが帰ってきた。<ネットワーク>はNBCCBSをモデルとしたTV局、マットはその巨大組織の中で表に出せない仕事を仕切るのが役目。

 

 30歳代で最も若い役員なのだが、部下は少なく(何事もなければだが)割合暇な日々を送っている。カネが有り余っている某夫妻のニューヨークの邸宅を借りて、愛犬と二人(?)暮らしである。この日も少ない部下のフォローをした後は、予定表にはランチしか記載がない。<ネットワーク>本社ビル「NetHQ」の食堂で、「床を掃き集めて作ったようなミートローフ」を食べるくらいだ。

 

 作者の筆は非常にアイロニカル、比喩も複雑でこの時代の米国人でないとわかりにくい部分も多い。(特に70年代のTVドラマについて・・・) それでも華やかなTV業界の内幕を知ることができて興味深い。

 

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 スタジオでは、10年振りに再結成されることになった「漫才コンビ」の記念番組のリハーサルが行われていた。レニイとケンは一世を風靡したコメディアン、レニイは奇術が得意でボケ担当、ケンはハンサムな突込み役だ。二人は、共同で貯めていた引退後の資金をレニイが詐欺師に盗まれたことで解散していた。今回の再結成にはケンの妻で女優のアリスも尽力したらしい。

 

 記念番組の司会は元セックスシンボルの大女優メラニイ、しかし数日前にレニイらを取材していた新鋭作家がロスで殺されるなど、不審な状況である。リハーサルの夜、NetHQビルに強盗が入り、重量1トンもある1952年の記録フィルムが盗まれ資料係が殺された。さらにメラニイが自らの象徴としているボーリングの玉も消えた。マットたちの捜査も進まないうちに記念番組の生放送の日が来たのだが、放送中にスタジオが放火されメラニイたちの頭上にボーリングの玉が落とされた。

 

 マットは大学で「国語」つまり「英語」を専攻、社会人になっても社長や警官の言い回しの間違いを指摘するなど言葉にこだわる性格。これは作者にも共通するようで、翻訳は大変だったとあとがきにある。本書そのものは紹介した3作ほど魅力的ではありませんでしたが、まだ数冊残っているのが楽しみな作者です。