本書は巨匠エラリー・クイーンの、最後から2番目の長編ミステリーである。以前最後の作品「心地よく秘密めいた場所」(1971年発表)を紹介しているが、本書はその1年前に発表されたものだ。
エラリーの活躍の舞台は、通常は父親は市警本部の警視をしているニューヨーク市である。時々ハリウッドに出掛けることもあった。ただ1942年の「災厄の街」で、ニュー・イングランド州にある架空の街「ライツヴィル」で事件に遭遇、以降6作ばかりの作品はその街を舞台にしていた。本書は「ライツヴィルもの」の最後を飾るものである。
ライツヴィルに初めて来たときエラリーは「僕はコロンブス提督になった」とつぶやき、ここが本当のアメリカだと考えた。都会/大都会とは違う「住民の顔の見える田舎町」、そこでの主に富豪の邸宅で起きる殺人事件がエラリーの新しい仕事になっていった。
本書にも、膨大な遺産を相続したジョン・ベネディクト三世という「遊び人」が登場する。全く生産的なことはせず、年中世界中のイベント(日本のひな祭りもあった)を巡り歩いている。コーラスガール・女優・看護婦とすでに3度結婚して、いずれも3~4カ月で離婚している。中背の華奢な男だが、3人の元妻はいずれも大柄(アマゾネスとある)なことだけが共通点。
彼の顧問弁護士アル・マーシュはエラリーの旧友で、その縁でクイーン父子はライツヴィルにあるジョンの別荘に招かれる。そこには3人の元妻もやってきた。ジョンはここで4度目の結婚をすることと、3人に遺贈ずる予定の財産を減らすと宣言する。しかしその夜、ジョンは何者かに撲殺され遺言状の書き換えは怒らなかった。電話で急を聞いたクイーン父子が駆けつけると、現場には3人の元妻の衣料が1品づつ残されていた。当然疑いは3人の元妻にかかるのだが・・・。
昔から作者は、アナグラムや言葉遊びを重要な手掛かりにする。今回のポイントは、究極のダイイングメッセージだ。ジョンの「どもり癖」と登場人物の名前による偶然が、最後のページで明かされる。
僕の大好きなエラリーもの、創元社では井上勇訳でなまえが「エラリー」、ハヤカワでは青田勝訳で「エラリイ」となっている。本書は後者だが、僕は創元社の方が好きですね。青春のシンボルだった作者のシリーズ、懐かしく読みました。