新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

隠れた本格ミステリー作家

 ルーファス・キングという作家のことは、今まで全く知らなかった。デビュー作「Mystery De Lux」は1927年の発表というから、同じニューヨークを舞台にしたミステリー作家としては、かのエラリー・クイーンよりも先輩である。第三作「Murder by the Clock」(1929年発表)で、レギュラー探偵ヴァルクールが登場している。

 

 作者は、生涯で22作の長編小説を遺した。その半分で、ニューヨーク市警本部ヴァルクール警部補が探偵役を務める。本書はその一番脂の乗り切っていたころ、1936年の発表である。

 

 富豪のトッド家には2人の美しい娘があり、姉のジェニーは健康的な青年ジョナサンに嫁いでいる。ところがジェニーが昔スター男優に出したラブレターをタネに、恐喝をする者が現れた。一人で悩んだジェニーは自殺してしまう。打ちひしがれたトッド家だったが、妹リディアの前にジョナサンの友人チャーリーが現れるなど明るさを取り戻しつつあった。

 

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 しかしそこに再び恐喝者が現れ、口論の後にジョナサンが暴行を加えると恐喝者が死んでしまった。トッド家は一家を上げて死体を始末しアリバイ工作をするのだが、車で死体を運ぶところを通行人に目撃され通報されてしまう。

 

 死体をうまく隠されたので、警察の対応は後手に回る。それでも通行人の目撃情報からヴァルクール警部補は捜査を開始、ついに隠された死体を目撃されたものと同一人だと確認する。捜査の手が迫ったと知ったトッド一家は所有している大型のヨットで海上へと逃げるのだが、ヨットの中で再び殺人事件が起きてしまう。

 

 作者の作品を読むのは初めてだったので、コロンボ警部風の倒叙ものだと思って読んでいた。ところが中盤を過ぎて、恐喝者はジョナサンの暴行によってではなく射殺されていたことが分かる。物語はそこからがぜん面白くなる。第二の殺人の後ヨットの中を捜索しても、犯人が見つからないというのも見事なトリックだ。

 

 こんな作家が、1920年代のアメリカにいたのですね。ヴァン・ダインやクイーン、カーに比肩しうる本格作家と思いました。日本にはほとんど紹介されていません、それが残念です。