新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

8人目の海兵隊員

 作者のマイケル・バー=ゾウハーは、恐らくは元モサド隊員。六日間戦争(1967年)でダヤン国防相の報道官を務め、第四次中東戦争(1973年)では自ら空挺隊員としてスエズ運河を渡っている。自らの軍事・諜報経験を基にして「過去からの狙撃者」や「エニグマ奇襲指令」などスパイスリラーの名作を残した。

 

 本書でも主人公のウォルト・メレディスは、CIA経験もある軍官僚。今は、国防総省の「MIA局長」である。彼自身、離婚した妻との間に授かった一人息子はヴェトナム戦争でMIA(Missed in Action)になっている。

 

 米軍には「無名兵士を祀る」という風習(制度?)があって、その戦争で犠牲となったものの身元の分からない兵士を一つの戦争当たり一人選んで、アーリントンの特殊な墓地に葬ることになってる。彼は実名を持たず、その戦争でKIA(Killed in Action)もしくはMIAになった全ての兵士の代表になるのだ。

 

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 ホノルルの海軍施設でヴェトナムから運ばれた損傷の激しい遺体を改めたメレディスの任務は、その遺体をヴェトナム戦争の「無名兵士」と認定してアーリントンに移送すること。ただ彼は遺体から取り出されたのが、米軍の銃弾や手榴弾の破片であることに疑問を持つ。

 

 遺体が発見された村では、確かに海兵隊の1個小隊が戦っているのだが7人中2人が戦死、2人が捕虜となり1名が死亡、捕虜になったもう一人と残り3名は帰国していた。死者の身元は分かっているから、メレディスは8人目の海兵隊員がいたのではないかと推理する。帰国した隊員たちの行方を探すメレディスだが、一人は捕虜の結果廃人同然で口もきけない。一人は狩猟中に「事故死」、あとの2名は当時の話をしてくれない。

 

 メレディスが兵士自身やその妻、元恋人や親から情報を得ようとするプロセスと彼らの答えが興味深い。第二次世界大戦までは米軍は「正義の軍隊」だったが、ヴェトナムではその権威を失った。ノルマンディなどで戦った親の世代の理想と、ヴェトナム戦争世代の現実に大きなGAPができている。

 

 事故死した兵士の弟(黒人)はムスリムに改宗して白人を徹底的に憎んでいるように、人種間のGAPもまた大きい。ヴェトナム戦争アメリカ社会に残したキズを、ユダヤ人の作者が巧みに描いていました。戦場で何があったかというナゾよりも、上記のGAPの方が興味深かったです。