新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

トラベルミステリー、ここに始まる

 西村京太郎という作家は、膨大な作品を書いている。長編・短編集合わせるとその数600冊ほど。1965年の長編二作目「天使の傷痕」で江戸川乱歩賞を受賞している。その後、特に決まった探偵役を持たずノンシリーズを発表していたが、1978年の本書(40冊目)で十津川警部・亀井刑事の名コンビが登場する。そして作者を有名にする「トラベルミステリー」がここから始まることになる。

 

 昭和53年の時刻表をもとに、東京・西鹿児島間を走るブルートレインはやぶさ」を舞台に、奇妙な女性殺人事件とその背景に潜む陰謀を描いたものだ。当時すでに新幹線は博多まで開通していたし、航空路線も充実していたのだが丸一日かけて走るブルートレインの魅力が何度も語られる。多くのブルートレインがあるのだが、西鹿児島まで行くのは「はやぶさ」と「富士」だけ。

 

 週刊誌記者の青木は、ブルートレイン人気を扱った記事を書くため「はやぶさ」の個室A寝台で旅をすることに。列車の中でピンクスーツの美女に声をかけ写真を撮るのだが相手にしてもらえない。さらに高田と名乗る弁護士とも食堂車で話をしたのに、カメラを置き忘れ(ニコンの黒ボディ!)取り戻した時はフィルムを抜かれていた。

 

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 青木はその後も個室寝台の1号車の中で不可解な事件に巻き込まれ、殴られて意識のないまま門司駅ホームに放置されてしまう。一方ピンクスーツの若い女多摩川に浮かび、ハンドバッグに青木の名刺があった。被害者は青木が「はやぶさ」で会った女の公算が高いが、それなら死亡推定時刻にはまだ西鹿児島についていないはずだった。

 

 そして国鉄を管掌している与党の運輸大臣が、鹿児島の選挙区に「お国入り」するのに「はやぶさ」を使うことが分かり、大臣を狙う陰謀が蠢いているのではと十津川警部らは考える・・・。

 

 このころ僕も作家志望の大学生、勝手に「特急富士の24時間」などと題したミステリーを書きかけて頓挫していた。作者は僕ごときの構想をはるかに超える大きな仕掛けで名古屋・大阪・岡山・広島にまたがる陰謀譚を練り上げた。作者自身が後年ベスト3にも挙げる傑作なのだが、初めて読んでそれは間違いではないと思いました。作者の作品は膨大すぎて初期のものしか買ってないのですが、これは十津川警部ものも探さないといけませんね。