新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

酔いどれ弁護士と仲間たち

 米国のユーモアミステリー作家であるクレイグ・ライスの作品は、これまで読んだことがなかった。1939年発表の本書でデビューした作者とレギュラー探偵J・J・マローンは、作者が亡くなるまでの間に12冊ほどで活躍する。本格ミステリーの本家英国には多くの女流作家がいるが、1930年代までの米国には女流作家は多くなかった。その時代の代表格が彼女で、マローンともども文壇では有名な存在である。

 

 にもかかわらず僕が本書で初めて作者に触れるのは、看板が「ユーモアミステリー」となっていたから。探偵役マローンは刑事弁護士でヘレンとジェィクという気心の知れた仲間を持っているのだが、ペリイ・メイスンのように法廷戦術が光るわけでもなく仲間たちと緊密に連携した捜査をするわけでもない。3人寄れば事件の話はもちろんするのだが、朝ならビール、日が傾けばライ・ウィスキーを浴びることしかしない連中である。

 

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 舞台はイリノイ州シカゴ、本書の設定も冬で死体が凍り付いてしまうような白い街で殺人犯人を追う話は、あまり見栄えのするものでもない。主人公が格好良ければいいのだが、小柄で風采が上がらず大言壮語ともっと大きな胃袋が取り柄のマローンではそうもいかない。

 

 解説にも「作者の作品は暗い」とある。ユーモアミステリーなのになぜ暗いのかと言うと、作者自身の陰があるからかもしれない。身体的にも不自由なところがあり、5度結婚している。自殺未遂も2度、マローンよろしくライ・ウィスキーをあおり続け、49歳で「自然死に見える状態」で発見された。

 

 本書は富豪の遺産相続人ホリーとグレンの双子兄妹が住む家で、富豪である伯母が刺殺されるところから始まる。ホリーが夜半にグレンに電話し、けがをして病院にいるから迎えに来てくれという。ホリーは自室で寝ていたのだが、グレンたちが家を離れたすきに伯母が殺されたのだ。不思議なことに、屋敷中の時計がすべて午前3時を指して止まっていた。容疑者となったホリーの弁護を引き受けたのが、マローンとその仲間たち。マローンはホリーを脱獄させて時間を稼ぎ、真犯人を追うのだが・・・。

 

 ある意味ち密な女流らしいミステリーだが、マローンの仲間のヘレンが洗濯物用のダストシュートに身を投げるシーンなど、パンクな雰囲気もある作品でした。このシリーズ、あと数冊買ってありますから順番に読んでみましょう。