新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ドイツの病、フランスの病

 本書は以前「グローバリズム以後」を紹介したフランスの「知の巨人」エマニュエル・トッドが、欧州について語った記事を集めたものである。トッドは歴史人口学者で家族人類学者。本書でもドイツの長男継承の家族主義とフランスの核家族個人主義を比較している。彼によれば、日本はドイツ流の家族形態を持つ「似たもの同士の国」である。

 

 東西冷戦末期、あるフランスの著名人にメディアがインタビューをしていて「ドイツ統一についてどうお考えですか?ドイツはお嫌いと聞いていますが」との問いに、その人物は、

 

 「君は間違っている。私はドイツは好きだ。だからこそ2つあってほしいと思う」

 

 と応えたという。皮肉好きのフランスエリートならではの答えだ。トッド博士のスタンスもドイツには批判的なものだが、本書のタイトルのようにあからさまにドイツ(第四)帝国を非難する内容ではなく、むしろサルコジからオランド政権期のフランスを批判するものになっている。2010~2014年ころのインタビュー記事が中心で、ロシアの復活・ドイツの専横・米国の迷い・フランスの無為無策が語られる。

 

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・ロシア 乳児死亡率の低下はプーチン政権の功績、女子の大学進学率が高く、1億4,000万人を超える人口もあって力を伸ばしている。

・ドイツ 少子高齢化などの課題を抱えながらユーロ圏内で唯一の貿易黒字国、「支配者たちのデモクラシー」は経済的に力強さを持っている。

・米国 オバマ大統領誕生が内政・外交に迷いを持っている証拠、人種問題もあるし中東政策、対露外交などで従来の力強さが見られない。

・フランス 出生率は2.0近くまで回復してきたが、富の偏在(ピケティ研究)がひどく社会不安が大きい。自前の通貨を持てないひずみが大きい。

 

 という。反ムスリム・反外国人・反ロマのサルコジ政権を辞めさせるため、誰でもいいと担いだオランド候補だが、銀行業界に支配された上にメルケルのいいなりだと嘆いている。博士は、フランスにとって資本主義上の「市場」とは超富裕層(人口の0.1%)を示すといい、銀行支配が庶民を苦しめると糾弾する。のちに大統領になるマクロンロスチャイルド銀行出身の唾棄すべき男だと一刀両断である。

 

 博士の意見に従うなら、フランスこそ"Frexit"すべきだということになります。欧州が抱える問題、ただフランス人のドイツ嫌いだけが原因でもないようですが・・・。