昨日フランスの識者の目から見た欧州の問題を取り上げたのだが、今日は英国駐在の日本人が見た英国の病と欧州の問題を見てみたい。筆者は産経新聞社の記者で、かつてモスクワ支局長を務め、本書発表(2016年)の時点でロンドン支局長の職にある。昨日のトッド博士の論説と共通しているのは「ロシアの脅威」と、欧州委員会が微に入り細に渡る規制を展開していること。
ソ連解体からNATOが東に向かって拡大し、同時にEUの参加国も格段に増えた。いわゆる東欧圏が加入したのだが、ポーランド・バルト三国・チェコ・スロバキア・スロベニア・ハンガリー・マルタ・キプロス・ブルガリア・ルーマニア・クロアチアまでで合計28ヵ国になった。
英国民からすると2つの大きな不満がある。これら旧東欧圏の国への支援が英国民の税金から行われていること、そしてこれらの国からの移民が安い労働力として仕事を奪い社会保障を食んでいること。これをロンドン市長ボリス・ジョンソンらが誇張して喧伝し、
・毎週のEUへの拠出金3億5,000万ポンドは、そのまま国民保健サービスに充当
・離脱で移民制限も可能になる
とEU離脱を訴えた。その国民投票の結果、扇動した人たちすら驚く"Brexit"が成立してしまったのである。
その後上記のことは虚偽だったことも報じられ、もう一度やり直そうという後悔の言葉も聞かれた。しかし一度行われた投票は、英国(グレートブリテン・北アイルランド連合王国)にとっての内政問題も励起してしまう。それはスコットランドが独立してEUに残る気配を見せていること、北アイルランドが分離してアイルランドと合併しかねないこと、さらにウェールズまで独立しかねないことだ。
もともとEUの発想を欧州人で最初に持ったのはチャーチルだと、本書にある。アメリカ合衆国を巡り国境や関税の無い経済圏がいかに豊かかを実感した彼は、欧州合衆国を提唱したのだが英国は主役ではなく「仲介人」としてこれに加わる構想だったらしい。現に「Frexitの方が1,000倍も理由が多い」とフランス人が言うように、英国はシェンゲン協定にも入らず、独自通貨ポンドを維持している。
4年ほど前の本ですが、2冊読んで欧州の課題はぼんやり見えてきました。2冊が警戒するロシアさえ、今プーチン健康不安で揺らいでいます。加えて「COVID-19」騒ぎです。漂流する欧州はどこへ向かうのでしょうか?