新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヤクザ・Tokyo・日本刀

 寡作ながらリアルなバイオレンス小説の旗手であるスティーヴン・ハンター、有名なのはアール・スワガーとボブ・リー・スワーガー父子を主人公にしたシリーズだ。この親子は共に海兵隊出身、ボブ・リーはヴェトナムなどで「ネイラー」とあだ名される凄腕のスナイパーとして鳴らした。敵兵やその集団を「釘付け」にするからである。

 

 ハンターは執筆にあたっては、綿密というより執拗な取材をする「凝り性」。もともと日本好き、サムライ好きだったようで、ヤクザや歌舞伎町、日本刀、忠臣蔵などを徹底的にリサーチしている。特に「武器フェチ」とも思える姿勢で、日本刀の細かな部位を取り上げたり、砥ぎ師の仕事ぶりを紙幅を割いて説明している。

 

 もちろんケンドーについても、技術面だけでなく精神面(むしろこちらが多いか?)に踏み込んで紹介している。ボブは実際に「道場主」に弟子入りし、道場にぞうきんがけをし、新兵時代以来の過酷なトレーニングを受け、最後は天才少女剣士と立ち会う。

 

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 発端はアールが硫黄島で戦った矢野大尉の軍刀、大尉は戦死し軍刀は米国にわたっていたのだがそれを探してほしいとボブが矢野の息子から依頼されたことである。ボブは首尾よくその軍刀を見つけて、日本の矢野家に届けるのだがボブの帰国の日、矢野一家は幼い末娘を除いて全員虐殺されてしまう。

 

 実はこの軍刀、大石蔵之助が吉良の首を刎ねた刀(!)だった。これをヤクザ軍団を束ねる近藤勇(!)という剣士が奪うための犯行だったのだ。近藤のバックにはポルノ業界の「ショーグン」という大物がいて、日本の官憲は事件解決に及び腰。怒ったボブは、道場主から与えられた「村正」を片手に、最強の剣士近藤と果し合いをする。

 

 銃器の規制が厳しい日本では得意のライフルが使えないボブの努力が綿々とつづられるのだが、刀剣だって日本では持ち歩きは制限されているのに・・・と思った。作者はボブに思う存分刀剣をふるわせるシーンを考えて、Tokyoを舞台にしたようだ。こまった誤解である。

 

 このほかポルノ業界のTOPを選ぶ選挙が、まるで首相選挙のように描かれているなど日本のリサーチやチェックは不十分だと思う。まあ、そんなこと気にせずにボブの努力と剣技を楽しむべきなのでしょうがね。