新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

在日中国人が見る中国

 2018年発表の本書は、北京大学・香港中文大学への留学経験のあるジャーナリストの著者が、70万人もいるという在日中国人にインタビューしたものである。かつて在日中国人といえば、中華料理店のコックに代表されるようなエッセンシャルワーカーのイメージがあるが、現在は中国企業の日本法人社長のような富豪や先端的なIT能力を持った技術者など、高度な知識・技能をもった人も少なくない。

 

 そんな人たちの中では、自分はもちろん子弟の教育に全力を傾けるのは当たり前。通常の学業のほか、多種多様な「習い事」をコストを支払って習得させ、少しでも高い能力を身に着けられるようにするのが親の責務らしい。そのレベルの高さは「大学に行くなら、早稲田・慶應が最低ランク」というほどだ。

 

 日本で育った中国人青年が故国に戻って高校などに通うようになると、そのGAPに戸惑うという。力を尽くして教育していたはずなのに、理数系の学科では日本の中学三年生と中国の小学四年生が同レベルだという。毎日課せられる宿題の量もケタ違いだ。

 

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 中国の中流家庭以上の親の教育熱はすごいと聞いていたが、こういう実例を挙げられると納得してしまう。どうしてそんなに熱心に勉強するかと言うと、典型的な格差社会だからだろう。優秀者は大学在学中か遅くとも卒業時に、共産党に入ろうとする。エリートの象徴たる共産党員だが、9,000万人くらいしかいない。

 

 面白いのは共産党員でも民間企業にも就職するのだが、企業に3人以上の党員がいると「支部」を作る決まりらしい。当然Huaweiなどにも「支部」はあるわけだ。ただ日本にいる党員のインタビューでは、最近は党員としての締め付けも強くなく普通に企業人として活動しているという。

 

 また彼らの意識として「滴滴のような配車アプリを見て、スマホ持てない人は気の毒だと思うのは日本人。中国人はスマホ持てないような弱い人の事は考えない」というのがある。その傾向は、日本生まれ・日本育ちの中国人にもあるという。

 

 米中対立や尖閣問題、台湾・香港問題などあって、どうしても中国&中国人の行動様式には注意を払わないといけない時代です。さすがに政治的な記述は少なかったのですが、共産党員の考えも含めて勉強になった本でした。