新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

8人のネクサス6型

 以前「地図にない町」を紹介した。SF・ファンタジー作家フィリップ・K・ディック。40編ほどの長編と、かなりの数の短編(短編集は20冊以上)を遺した。20歳代の頃から小説を書き始め、1955年の「偶然世界」でSF作家への道を定めた。1963年には「高い城の男」でヒューゴー賞を受賞している。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/06/18/000000

 

 で、「どこか歪んだ世界」を描いた短編ばかりだと言ったように、いろいろな角度の「非日常」の舞台で現実社会の矛盾を書きたかったのかもしれないと思う。

 

 私生活では5回結婚、5回離婚。54歳の時に、本書(1968年発表)の映画化が完成する前に脳梗塞で亡くなっている。その映画は、1982年封切りの「ブレード・ランナー」。若き日のハリソン・フォード主演で、近未来のロス・アンジェルスを現したSFXは作者も気に入っていたという。

 

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 舞台は核戦争の後のカリフォルニア州ソ連という国も生き残っているようだが米国とソ連以外の動向は伝えられていない。地球の大部分が死の土地になっていて、絶滅した動物も多い。生き残った人類の楽しみは家畜を飼うこと。希少なので高値で取引され「何年ローン」を組むこともある。

 

 主人公のリックは「賞金稼ぎ」、人間社会に潜むアンドロイドを始末すると1,000ドルの賞金にありつける。今回彼に依頼された「賞金首」は、植民地惑星から逃げだしてきた最新式の「ネクサス6型」の8人。機械仕掛けではなくバイオ技術によって生み出された「人工生命」で、人間そっくりだし知能は人間より勝る。

 

 彼らを追うリックだが追跡中に警官に取り押さえられてしまい、「お前こそアンドロイドだろう」と警視の前に引き出されてしまう。実はこの警視こそがアンドロイド、別の賞金稼ぎの助けで彼らを倒したリックに、美しい女アンドロイドが色仕掛けを掛けてくる。

 

 読み進むうちに、頭がくらくらしてする感覚に襲われる小説だ。何が正しくて何が間違っているか?この世界では逆転しているような、裏があるような・・・。映画ではどう表現したのか(見ていないので)わからないが、SFというよりは「人間って何」と問いかけられているファンタジーのような気がする。日本ではあまり紹介されていない作家で、あと1冊だけ買ってあるのが楽しみです。