新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

スコットランドの寒いイブの夜

 ミステリーの女王アガサ・クリスティは、英国の地に多くの後継女流作家を遺した。米国にも多くの女流ミステリー作家はいるのだが、社会派ミステリーだったりユーモアミステリーだったり、時にはハードボイルド/警察小説を得意とする人もいる。それに比べて英国には、本格ミステリー作家が多い。

 

 日本にはあまり紹介されていないが、本書の作者ジル・マゴーンもそのひとりだ。スコットランド生まれで、鉄鋼会社に勤めた後作家デビューしている。デビュー作「パーフェクトマッチ」はまだ入手できていないが、本書と同じデイヴィッド・ロイド首席警部が探偵役を務める本格ミステリーとのこと。

 

 本書の舞台はスコットランドの田舎町、雪が降るクリスマスイブに牧師夫婦の娘婿が牧師館で撲殺される。ベッドに寝ていたところを火かき棒で乱打されたらしい。この男、結婚当初から妻に暴力をふるうDV夫。娘は骨折をして入院するほどで、実家に帰ってきていたのだが、イブに夫が連れ戻しに来てまた暴力をふるったのだ。

 

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 容疑者は、牧師かその妻か、娘か、付近に住む未亡人か、4人しか考えられない。いずれも微妙なアリバイを主張するのだが、細かなところに矛盾が生じている。どうも牧師一家はお互いをかばい合って様々なウソをついているらしい。ロイド首席警部は部下のジュディ・ヒル部長刑事とその謎に挑む。

 

 ロイドは子持ちのバツイチだが、ジュディには10年連れ添った夫がいる。ところがこの二人、15年前にロンドンで出会って恋に落ち、一度は別れていたものの今も不倫関係にある。DV夫を巡って想いが絡みあう牧師一家と未亡人、これにロイドとジュディの不倫が重なり合って複雑な心理劇が展開されていく。このあたり女流作家の得意とするところ(僕にはわかりにくいところ)である。

 

 400ページを、たった4人の容疑者の捜査だけで引っ張ってくる作者の力量は大したものだ。少し読みにくかったのは、牧師館・古いお城・パブなどの位置関係がピンとこなかったこと。作者が手本にして、作中でもロイドが「ミス・マープルに任せたい」というほど意識していた「牧師館の殺人~ミス・マープル最初の事件」でも冒頭セントメアリーミード村の主要な建物の位置関係は書いてあった。それを付け加えてくれたら、もっと楽しく推理できたのに・・・と思います。