新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

軽妙だが深淵なモノローグ集

 脚本家で、舞台・映画・TVドラマと八面六臂の活躍を続ける才人三谷幸喜が、たった5日間の「会議」を描いたのが本書。一代の天才織田信長明智光秀に討たれ天下統一に暗雲がさしたが、その光秀も討たれ「Beyond信長」を決める場になったのは、戦場ではなく清須城での会議だった。

 

 多くの人が知っている戦国末期のエピソードの一つだが、この会議だけを捉えた物語というのは寡聞にして知らない。史実を踏まえたうえで、限定された登場人物の(現代語訳の)モノローグ中心で仕立てたものである。映画化もされていて、僕自身は本書を読む前に映画を何かのフライトで見た。柴田勝家役所広司)の古風な一本気さ、羽柴秀吉大泉洋)の変幻自在さ、お市の方鈴木京香)の執念深さに加えて、丹羽長秀小日向文世)の複雑な心境や黒田官兵衛寺島進)の策士ぶりを覚えている。

 

 さすがは三谷脚本、これだけの芸達者をよく集め見事な配置をしてのけたと感心したものだ。その原作が本書で、登場人物の心のうちを赤裸々に綴るにはモノローグ形式が一番良かったのだろうと思う。

 

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 直接対決するのは信長の次男信雄と三男信孝、長男信忠が戦死しているので順当な話だが、バカで有名な信雄を担ごうとしたのが秀吉、まあ普通の武将である信孝を担いだのが勝家たちだ。いろいろな権謀術策が渦巻くが、空白の一日となった日に「イノシシ狩り」をする話は笑いを誘う。

 

 腰抜けの信雄が絶好のチャンスをのがし醜態をさらして信孝にリードされるなど、笑い話のようなエピソードが続く。そこで登場するのが信忠の妻で武田信玄の娘松姫。当時の人気若手女優剛力彩芽が演じていた。

 

 全体のトーンをコミカルに、しかしテーマはシリアスに、この物語を作者は進めていく。柴田・羽柴の両雄は当然対立するのだが、その中間にある池田恒興佐藤浩市)と織田信包伊勢谷友介)の心の動きは面白い。これらの心理劇としても興味深いものだった。余談だが本書のキーマン丹羽長秀は武勇が大したなかったせいであまり有名ではないが、織田四天王のひとり。いまでも尾張には丹羽という旧家が多い。

 

 小日向文世の好演はとても印象的でしたね。この役者さん、相当な腕前です。