新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

国名シリーズの終着駅は日本

 本書は、エラリー・クイーンの国名シリーズ最終作品である。第9作の「スペイン岬の謎」のあと、突然「中途の家」と来て国名シリーズは中断する。ある評ではこの作品は「スゥエーデン燐寸の謎」とすべきだという話も合ったのだが。そして第11作は最初の題は「The Japanese Fan Mystery」だった。しかしその後「The Door Between」と改題された。これは1937年という発表時期、日米関係が悪化していたことに起因すると思われる。こういう事情で、創元社が文庫化するときに邦題を「ニッポン樫鳥の謎」としたのである。

 

 ニューヨークのど真ん中にある日本庭園を囲む一帯。ここに住む東洋もので知られる女流作家カーレン・リースは、世界的な癌研究の第一人者マクルア博士との結婚を控えていた。新郎53歳、新婦40歳だが二人とも初婚である。カーレンは姉のエスターと共に、東大教授を務めた父親と第一次世界大戦中の東京で育った。

 

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 今もニューヨークの自宅兼執筆場は日本情緒に溢れている。キモノを着、お茶を立て、屏風に囲まれて執筆をしている。老女中キヌメは琉球人、琉球では300年間人殺しの武器は使われていないと聞いて「殺人事件の専門家」エラリーは感嘆する。

 

 ところがカーレンは自室で刺殺されてしまう。彼女を訪問したマクルア博士の養女エヴァが見ていた扉からは誰も出入りせず、窓には鉄格子、屋根裏部屋に通じるドアには閂がかかっていた。駆け付けた私立探偵テリーは、エヴァを助けようとするのだが状況からエヴァ以外に犯行の機会があるものはいないある種の「密室殺人事件」である。

 

 初期の作者は、華麗な推理で読者を魅了した。ただ内面(心理面)はひからびて貧弱だと評されることもある。本書はその転換期にあたるもので、華麗な論理推理もあるのだが心理的なストーリー展開に挑戦した気配もある。以後作者の「ライツヴィルもの」などは、人間の内面に迫る作品となっている。

 

 若いころの作者は特に女性を描くのが苦手、本書ではヒロインであるエヴァの恋愛・結婚観に未熟さがうかがえる。学生時代に読んだ時にはそう感じなかったのだが・・・。僕が女性心理に疎くなり、独身生活を長く送る羽目になったのは、エラリー・クイーンのせいなのかもしれないなと思いました。まあ、なにはともあれ懐かしい作品でした。