新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「オロクジ(死体)はどこだ?」

 1962年発表の本書は、エド・マクベイン87分署シリーズの中でも珍しい中編集。ずいぶん多くの作品を紹介していた愛読書なのだが、本書は特に印象に残っているものだ。といって、トリックがすごいとかアクションがすごいというわけではない。87分署の刑事たちの日常が綴られているだけだ。

 

 このシリーズの主役は、もちろん刑事部屋の刑事たち。小柄なジュードーの達人や黒人刑事もいるが中心人物は4人だ。

 

・イタリア系のキャレラ刑事

 目の吊り上がったいかつい大男、妻はすごい美女だがろうあ者。双子の子供がいる。

ユダヤ人のマイヤー刑事

 やや太めの中年男、3人の子供と妻に悩まされる子煩悩な夫である。

・若手の二枚目クリング刑事

 婚約者を殺されたり、美人妻に逃げられたり女難ばかりの好青年。

赤毛の大男ホース刑事

 牧師の息子で高級住宅街の30分署からの転勤組、荒事は得意ではない。

 

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 舞台である架空都市「アイソラ」のモデルはニューヨークらしい。その中でも「人種のルツボ中のルツボ」なのが87分署管区。白人富裕層の豪邸からちょっと来ると、黒人やヒスパニックの貧民街が広がっているようなところだ。昨年の「Black Lives Matter」騒動を彷彿とさせる事件は日常茶飯事である。本書の中の作品は、

 

・6万ドルもの預金がありながら60ドルの安アパートに住んで扼殺された白人女性

ユダヤ教の過越祭に、滅多切りにされて殺されたラビ(牧師)が残した血文字「J」

・雪山のゲレンデで尖ったスキーストックで刺殺されたスキー教師の北欧娘

 

 の話である。クリング刑事はちょい役でしか出てこず、キャレラとマイヤーとホースが各々中心人物となる。僕はこのホース刑事が大好きで、彼が死体に滅多にお目にかからない30分署から死体(彼らはオロクジと呼ぶ)のあふれる87分署勤務に戸惑うシーンで好きになった。

 

 今では彼も現場に来て悠然と「オロクジはどこだ」と言えるようになっている。雪山の事件では、休暇でスキーに来て事件に遭遇するのだが現地保安官たちの捜査を見ていられず介入することになる。

 

 他の刑事が刑事部屋でコーヒーをガブ呑みするのに、彼だけは「Tee」をたしなむ。僕の紅茶好きは、ホース刑事の影響だったような気もする。87分署シリーズで本書だけは、本棚に最後まで残しておきたいですね。