新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

CIA分析官とその夫

 2018年発表の本書はカレン・クリーブランドのデビュー作なのだが、出版前から映画化が決まっていて、出版されるや普段スパイスリラーに興味のない人たちまで購入したという話題作だ。作者は本書の主人公であるヴィヴィアン・ミラー(ヴィヴ)と同じCIA分析官だった。職を退いた後、本書を発表している。現役時代、夫に対して「この人はスリーパーではないか?私はターゲットだったのでは」との疑問を持ったこともあるという。

 

 ヴィヴは30歳過ぎの分析官、上級職ではないがロシア担当で、ロシアの対外諜報機関SVRが米国内に放った、スリーパーとその管理者(ハンドラー)をあぶりだすことに全力を挙げていた。夫のマットはソフトウェア技術者で、4人の子供に恵まれベゼスタに住んでいる。ベゼスタは海軍病院のあるところで決して生活費は安くないが、子供に良い学校をとマットが主張し無理をして買った家だ。

 

 ワシントンDC周辺は、はっきりした格差社会だ。生活費が安いところは環境が良くない。特に教育事情は、地域に寄って著しい差がある。ダブルインカムの2人は、なんとか上流社会の入り口の暮らしが出来ているのだ。

 

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 ヴィヴはロシアのハンドラーと思しき男ユーリを突き止め、そのPCに侵入することに成功する。PCには「友」というFileがあり、ユーリ配下のスリーパーの画像があった。そのうちの一枚が・・・夫の写真だった。

 

 ヴィヴはCIAに就職が決まった後、マットと知り合った。ウマがあい直ぐに愛し合うようになった二人は結婚し、4人の子供を持つまでになった。しかしヴィヴはマットの両親には1度しか会っていないし、過去もはっきりとは知らない。物語は虚々実々のスパイ戦の中で翻弄される普通の家庭と、ヴィヴとマットの出会いから今までを交互に描いて進んでいく。

 

・CIAとFBIがロシアのハンドラーを二重スパイにする計画

・ロシアのスパイがCIA内のサーバーにUSBを差し込ませる手口

・CIA内のモグラを探り出そうとするFBIの調査

 

 などがリアルに描写されている。ヴィヴがCIAの<情報隔離室>に入ってUSBをサーバーに差し込む場面は特筆ものです。直近の作品だけに、ハッキングやファイルの消し方、ウイルスを仕込むやり方などサイバーセキュリティの関係者が読んでも役に立つ作品でした。作者の続編は翻訳されていないのでしょうか?