新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

死体置き場のキンジー

 1986年発表の本書は、これまで「アリバイのA」「泥棒のB」を紹介した、スー・グラフトンの第三作。南カリフォルニアのサンタ・テレサに住む、女探偵キンジー・ミルホーン(わたし)のシリーズである。キンジーは32歳、離婚歴2回、元は警官だったが、拳銃捌きが上手いとか格闘に強いということは無く、執念で事件の核心に迫るのが得意技。前の事件で(.22口径とはいえ)左腕を撃たれてリハビリ中だ。

 

 そんな彼女が通うジムに、ひどい傷を負って片足を引きずっている23歳のボビーもリハビリにやってくる。彼は9ヵ月前、運転中に追突されて崖下に車ごと転落、同乗していた親友は即死、彼も全身に傷を負い脳も損傷している。一時期は命がないか植物人間かと思われたのだが、奇跡的に動けるまでになった。ただ脳の損傷で、記憶に欠けている部分がある。警察は事故で決着させたが、ボビー自身は何者かに殺されそうになったと思っていて、知り合ったキンジーに調査を依頼する。

 

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 彼は大富豪の母親グレンと、母親の再婚相手デレク、その連れ子の娘キティと郊外の豪邸で暮らしている。その屋敷のパーティで関係者に逢うことになったキンジーは、あまりの豪邸に驚く。なにしろ屋敷の前の道「ウェスト・グレン・アベニュー」は、彼女の名前を付けた通りなのだから。

 

 パーティには、精神科医・病理学者・看護師などが来ていたが、キティが部屋に閉じこもったまま。ボビーとキンジーが見に行くと、キティはラリっていた。栄養状態も悪く、話しているうちに昏倒してしまった。表面は豊かな暮らしなのだが、内側は病んでいる家庭であることをキンジーは強く感じる。

 

 事故に遭う前のボブは大学を卒業し、病理学者フレイカー医師の病院でインターンをしていた。その病院は検視もするので、何十人分もの死体保管庫がある。ボビーは夜勤の折にそこで何かを見つけ、命を狙われることになったのではないかとキンジーは考える。しかし調査も半ばの段階で、ボビーは再び事故を起こし、今度は助からなかった。キンジーは死体保管庫に入ったボビーの前で、事件解決を誓う。

 

 解説にあるように、サンタ・テレサだけではなく大都市郊外の街には、驚くような大富豪が住む。前二作にもそんな富豪は出てきたが、ボビーの家はそれらを上回るものだった。澄んだ青空と乾いた風の街をキンジーが駆け抜ける、さわやかなシリーズですね。もっと探してみましょう。