新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「高3コース」の連載推理

 僕が高校生の頃に「高×コース」という雑誌があり、高校生向けの月刊誌としてそこそこ売れていたと聞く。特に「高3コース」は大学受験の指南書のようなものだった。ちなみに浪人生向けの「蛍雪コース」という雑誌もあった。いずれも僕は買ったことはない。そんなお金があれば、翻訳ミステリーを買ったはずだからだ。

 

 本書は、1976年度にその「高3コース」に一年間連載されたミステリー。この時、僕はもう大学生だった。作者の大谷羊太郎は120冊以上のミステリーを書いた人。デビュー作の「殺意の演奏」で江戸川乱歩賞を受賞している。作者はもともとはミュージシャン、一時期克美しげるの付き人をしていたこともあるという。芸能界に詳しいことからTV業界などを舞台にした作品も多く、本書の事件にもTV界の視聴率争いが絡んでくる。

 

 高3になったばかりの恵一は、TVドラマで高層マンションから墜落死する男の事件を見た。屈強な男を体力に自信のない男が殺す話で、どんなトリックを使ったのかは来週の後編で謎解きされることになっている。ところがその日、彼の友人の高2生紀久子のマンションでドラマそっくりな事件が起きる。TVドラマでは犯人は死んだ男の1階下に住んでいるが、紀久子と兄はまさに死者の1階下に住んでいる。

 

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 兄俊明も死んだ男とはトラブルがあり、殺してやろうかと言っていたこともある。友人と考えた完全犯罪トリックは、ちょうどその日にオンエアされたドラマに使われるものと同じだった。疑われることを恐れた俊明は身を隠すのだが、恵一と紀久子は真犯人を見つけるべく事件に介入する。

 

 冒頭の「完全犯罪計画がTVドラマシナリオとして売られてしまった」話から、俊明の友人で「シナリオを売った」男の毒殺など、次々と異常な事態が発生する。作者のトリックの扱いには、なかなか手慣れたものがある。俊明に不利な証拠も続々見つかるのだが、逆にこれだけの証拠品を揃えることにできる人物も限られてくる。最後は容疑者を集めて恵一が一世一代の大芝居をする。

 

 やや竜頭蛇尾の感はあれど、面白ミステリーに仕上がっている。ただジュブナイルを意識しすぎたせいか(連載だからしょうがないが)、警察を向こうに回して高校生たちが犯人を突き止めてしまうのはちょっと乱暴な気がする。学生時代もほんの数冊読んだだけの作者の作品、今度は子供向けじゃないのを探してみます。