新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

逆説的論理による中国分析

 昨日日本の中国問題の専門家の著書を紹介したが、続いて本書は軍事戦略の専門家が見た中国事情である。以前「戦争にチャンスを与えよ」を紹介した元CSIS上級顧問エドワード・ルトワック氏に、奥山真司氏がインタビューしてまとめたもの。

 

 「戦争に・・・」でもロシアは戦略的に優れた国、中国は不安定な国とのコメントがあったが、本書ではより詳しい説明がある。著者の特徴は「逆説的論理」というもので、例えば大国は小国に戦争で勝てないという。例としてベトナム戦争などを挙げている。大国が小国に攻め入ると、大国の勢力をこれ以上伸ばさせたくない国が結束して小国を支援するからだとある。

 

 そんな視点から著者が21世紀の中国を見ると、それは3つの時代に分かれるとある。

 

・中国1.0 平和的台頭の時代、WTOにも加盟「世界の工場」になって発展。

・中国2.0 対外強硬路線、カネで自信をつけ南シナ海などへ進出し、敵を作る。

・中国3.0 選択的攻撃、やや内向的になり選んだ「敵」と限定的な紛争を。

 

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 なぜ平和的な台頭を続けなかったかと言うと、3つの誤算があったからと本書にある。

 

・カネが直ちに力になると思った。

・米国が衰退、自身は成長を続けると思った。

・二国間関係でコトが片付くと思った。(各国の連携を無視した)

 

 2.0時代の大失敗は、「九段線」などを持ち出して海洋支配をあからさまにしたこと。その結果ベトナム・フィリピンらの反発を招いた。尖閣や沖縄に触手を伸ばすものの口先介入に終わり、日米同盟を崩せない。しかし経済力はついたので米国と「G2」を目指した(習・オバマ)会談をするが失敗、強硬路線を主張する国内の圧力と現実の狭間で習大人は動けなくなった。

 

 元々習大人がTOPに就く前に、共産党は窮地にあった。(これは津上氏の指摘と同じ) 彼は腐敗撲滅のため「トラもハエも叩く」と宣言、実際に取締った。これは大衆の喝采を呼んだが、裏金を奪われた共産党幹部には恨みが残る。だから彼は国内では危うい立場で、いつ暗殺されるやもしれない。著者は中国は4.0に移行すべきだと提案している。それは「九段線」など侵略的行為をやめることだが、同時に難しいともいう。

 

 戦略以外は下手な国ロシアの記述も面白かったです。著者は何でもできるが戦略の下手な中国に対し、ロシアも含めた「封じ込め」が理想だと言っています。僕もそれができるなら一番いいと思いますね。