新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

科学捜査の曙、1905

 コロンビア大ロースクール卒、ニューヨーク大で文学博士号をとり、2009年発表の本書でアメリカ探偵作家クラブの最優秀新人賞を獲得した才女がステファニー・ピントフ。夫と娘がありニューヨーク在住ということくらいしか、私生活については分かってない作家である。

 

 原題「In the Shadow of Gotham」については、バットマン物語の都市のことかと思ったが、英国にあったという伝説の「愚か者の村」のことのように思う。1905年、ニューヨークの近くに「Gotham」に似た町があって、そこでの猟奇殺人事件が描かれている。

 

 主人公のサイモンは30歳前後の刑事、ニューヨーク市警からドブソンの町の警察に移ってきた。警察はほんの小さな組織で、刑事はサイモン一人だ。名家の娘サラはコロンビア大の大学院生、数学科の博士課程で高度な論文を書いている。しかしある日、伯母の家で何者かに惨殺され、その家のメイドも行方不明になる事件が起きる。

 

 本書は、その日から6日間のサイモンとコロンビア大の犯罪学者シンクレア教授のチームの捜査を「警察と犯罪学者の連携」という視点で綴ったものだ。この時代、ようやく指紋が証拠として取り上げられるようになり、法医学も進んできた。さらに犯罪心理学なども活用され始めていたのだが、現場の警官からは反発も強かった。

 

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 シンクレア教授は、サラの殺され方から数年前に同様の殺人事件があって、未決で保護観察中の男フロムリーの犯行だとドブソン警察に共同捜査を申し入れてきた。署長のジョーは取り合わないが、サイモンは教授のチームと共同捜査を始める。

 

 科学捜査も生まれたばかりだが、ダイバーシティも同じだったこの時代。男性陣より優れた数学者であるサラは、大学内でも疎まれていた。動機は猟奇殺人なのか、それとも大学内での嫉妬なのか?それもわからないまま日が過ぎていくのだが・・・。

 

 100年あまりさかのぼった歴史ミステリーでありながら、サイコ・サスペンスも強烈で、当時の科学捜査の実態も記した非常に面白い作品だった。500ページ弱なのだが、冗長さは感じられず、サイモンの古傷や容疑者フロムリーの複雑な過去などとても重厚な物語に仕上がっていた。

 

 ほかの作品はないのかと探してみたのですが、本書と「ピグマリオンの冷笑」があっただけです。日本での紹介が少ないのはどうしてでしょうか?