新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

チャンドラ・ボースの決死行

 本書は、陳舜臣の「わが集外集」の改題短編集である。作者には歴史ものから現代もの、ミステリーから冒険小説まで幅広い作品がある。多くの作品の中で、短編集にまとめられなかった9編がここに収められている。必然的に、上記の幅広い作風の9編を集めたことになる。

 

 作者は在日華僑の家の子、神戸生まれで三宮で長く暮らした。神戸の中華街の話もあれば、華僑のツアーで北京を訪れた話もある。そんな中、一番長く中編といってもいいのが表題作。ガンジーの左腕と言われたチャンドラ・ボースがインドを脱出して、台北で事故死するまでを描いている。

 

 ガンジーの右腕ネール(発音はネルーというのが正しいらしい)が、ガンジーに忠実な大人だとすれば、左腕のボースは激情家で直情径行な弟のような存在だったらしい。二人の間に8歳の年齢差(活動開始時にネール32歳、ボース24歳)があったことも、二人の運命を分けた。

 

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 インド独立のためには英国と戦わなくてはいけない。「無抵抗主義」のガンジーとたもとを分かったボースは、当時英国と戦争中だったドイツを目指した。本当はソ連に行きたかったと本書にあるが、確かにアーリア人しか眼中にないヒトラーよりは自らアジア人と称したジョージア出身のスターリンの方が相性が良かったかもしれない。

 

 しかしドイツとソ連が戦争になったからだろうか、結局ボースはドイツに行くことになる。しかしドイツがいくら連戦連勝したとしても、インドに辿り着くには相当の時間がかかる。同じく英国と戦争をしている日本は、シンガポールをとりタイと同盟しビルマに攻め込んでいる。ボースは日本行きを切望し、ドイツ・日本両軍の潜水艦をマダガスカル沖で乗り継いで日本に渡る。

 

 一時期はラングーンに赴いてインド革命政府を作ろうとした彼だが、日本軍の撤退で希望を失い、終戦直後の台北で事故死する。名前は知っていたけれど、どんな人で何をしたのかは初めて知った。軍人でもない彼がドイツから潜水艦に乗って南アフリカ喜望峰を回り、さらに潜水艦でインド洋からマレーに至る決死行、よほどの意志の強さがないとできることではない。

 

 そういえば「アドテクノス」というゲームメーカーが、「Red Sun & Black Cross」というゲームで、インドを舞台に日独両軍が戦うシミュレーションを出していたな・・・などということを思い出しながら読み終えました。