第二次世界大戦直後の1946年に発表された本書は、アガサ・クリスティーのポワロものの1冊。「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした作者と探偵のコンビは、26年間英国推理文壇に大きな足跡を残していた。しかし当初は「明るいスパイもの」が好きだった作者は、徐々にスパイものを書かなくなり偉そうぶっていたポアロも謙虚な探偵になっていった。
それは作者が成長して、スパイものや奇矯な私立探偵のリアリティに疑問を持ち始めたからだと思われる。このころにはメアリー・ウェストマコット名義の普通(恋愛)小説も何冊か発表され、作者はその分野でも相応の評価を得ていた。その意味でもこのころのミステリーは、情景描写・心理描写にすぐれた秀作が多いと言われている。
ロンドンからさほど遠くない田舎町、行政官(とあるが高級官僚だろう)ヘンリー卿はそこにホロー荘という邸宅を持ち妻や執事、何人かの召使と暮らしている。付近にはいくつもの滞在用ホテルや別荘があり、その一つにはポアロも静養にやってきていた。ヘンリー卿の苗字はアルカテル、土地の名士で親戚も多い。狩猟が趣味で、銃器のコレクションはなかなかのものだ。
ところがヘンリー卿が午餐のパーティを開いた日、招かれたポアロの目の前に撃たれたばかりの男が現れた。その脇には、銃をもって呆然と立っている女も。男ジョンは優秀な医師、女はその妻ガーダだった。ジョンは15年前に美人女優ヴェロニカと別れ、不美人ではないが愚鈍と評判のガーダと結婚し子供たちももうけた。しかし若い芸術家ヘンリエッタとは親しい関係にあり、最近町にやってきたヴェロニカとも会っている。
ジョンを巡る3人の女のコンフリクトが悲劇を生んだのか?ポアロは釈然としない思いで事件を探り始める。凶器と思われるのはヘンリー卿のコレクションから盗まれたと思われる回転式拳銃。警察はまずガーダの身柄を抑え、検視審問の臨むのだが・・・。
解説によれば作者は本書で、ミステリーと普通小説の合体を目指したのだという。作者の著作の中では一番情景描写が美しいとある。まあこれは翻訳者のコメントなので、原文を見てのことだろう。同時に大技のトリックも仕掛けたと解説にありますが、これは僕には分かりましたね。ひねくれた読者は、なんとなく嗅覚が働くものです。