新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

何も高齢者ばかりを責めなくても

 本書は「失われた20年」がどうして起きたのか、その処方箋は何かを筆者なりの視点で提案したもの。筆者の藤野英人氏は投資信託ファンドマネージャー、「レオスキャピタルワークス」を立ち上げて日本の成長企業に投資している人だ。

 

 本書の前半は日本の産業界の現状を「GG資本主義」と名付けて、高齢化した経営者が引退せず成長を阻んでいることを、種々の例を引いて説明している。

 

・日本企業約100万社の社長の平均年齢は、約60歳

・消費シェアの方も、60歳以上が約50%を占める

・上場企業約3,300社の調査では、社長の年齢が高いほど成長しない

 

 という。筆者に言わせれば「高齢者のサロンと化した経団連など解体してしまえ」ということだろう。筆者は先日紹介した「金融排除」でも紹介されていた地方銀行の能力低下の例も挙げているが、その主張には2点問題がある。

 

 まず成長が絶対条件だという、ファンドマネージャーならではの考え方。確かに成長は重要だが、地道にインフラストラクチャーとして安定的に現状を維持するのがミッションの企業もあるということ。もうひとつは、

 

超マクロ経済学による説明 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 で紹介したように、すでに地球上にフロンティアが無くなっているので従来型の「資本主義」は成長を続けられなくなっているということ。局地的に成長する企業はあっても、平均的にはこれまでのような成長路線は不可能だと、上記水野氏の本が説明している。

 

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 本書の、徒に高齢経営者を責め立てるような姿勢には、共感できないと思った。ただ後半の、じゃあ若人はどう生きたらいいかには、納得できるところも多い。まず低成長に甘んじている現行企業の中にあっては、サラリーマンではなく孤高の戦士「トラリーマン」になれと言う。その条件は、

 

・圧倒的な成果を挙げる

・お客様から信頼される

・社内に強力な庇護者を持つ

 

 ということだ。僕も伝統ある企業の中で「新事業」などという荒業をこなしてきたので、理解できる。またMITのレズニック教授が説く教育課程で、次の4つの「P」を強調している点、

 

・Project

・Peers

・Passion

・Play

 

 をもって実践した事業者たちの成功例は参考になる。地域活性化も含めて有望な若手経営者たちに贈るヒントとしては、意義ある書であろう。重ねて言いますが、無理に高齢経営者をヤリ玉に上げる必要はないと思います。