新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ラストベルトの環境汚染

 1988年発表の本書は、サラ・パレツキーの「シカゴの女探偵V・I・ウォーショースキーもの」の第五作。V・Iことヴィクは子供のころを過ごしたサウス・シカゴで、赤ん坊のころから知っている娘の「父親を捜して」という依頼を受けたことをきっかけに、この街で蠢く巨悪に立ち向かうことになる。

 

 トランプ大統領を産んだ一因とされる「ラストベルト」の産業衰退は、すでにこの時に顕著になっていたようだ。ミシガン湖の西岸でシカゴ中心部から2時間ほどハイウェイを南下した街は、ヴィクが子供のころはUSXサウス・ワークス、ウイスコンシン製鋼、フォードの生産工場などが立ち並び、2万人以上の労働者が働いていた。それが今はザクシーズ溶剤工場ほかが寂しく操業しているだけ。

 

 ヴィクの隣家に住んでいたルイーザは、病で明日をも知れない命。10歳ほど下で赤ん坊のころからヴィクが知っているキャロラインは、ルイーザが一人で育てた私生児だ。活発な娘に育ち環境団体の仕事もしているキャロラインは、母親の命のあるうちに父親は誰か知りたいという。ルイーザも親戚たちも決して教えてくれないのだという。仕方なく引きうけたヴィクだが、ルイーザの両親はじめ親戚の口は堅く、妊娠前にルイーザが務めていた溶剤工場に当たるしかなくなる。

 

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 しかし溶剤工場も大半の人が入れ代わり、20年前当時のことを知る人もいない。ルイーザと親しかったということで見つけた2人も、すでに故人になっていた。さらに工場の嘱託医だった医師からも十分な情報は得られない。しかしヴィクは、このさびれた工場に、何かの不正の臭いを嗅ぎ取る。そしてヴィクの幼馴染でキャロラインと同じ環境団体で働いていたナンシーが沼地で他殺死体となって発見され、ヴィクの周りにも不審な影がちらつく。

 

 1950年代から栄えたサウス・シカゴの工業は、環境汚染をまき散らしていた。環境規制が厳しくなるや、工場は徐々に移転(おそらく国外に)し従業員は失業におびえ、労働争議が激しくなったのだ。ヴィクには古参の市会議員、工場のオーナー、「ゴミの帝王」とあだ名されるギャングが圧力をかけて来て、彼女は命を懸けた闘いに臨むことになる。

 

 英国推理作家協会のシルバーダガー賞を獲った作品で、ヴィクものの中でも迫力ある一編だと思います。最初ハードボイルド調で始まったシリーズ、前作あたりから社会派ミステリーの色が濃くなりましたね。