新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

板門店での銃撃事件

 多分韓国のミステリー(軍事スリラーか?)を紹介するのは、これが初めて。南北の休戦状態を題材にした映画としては「シュリ」(1999年)が有名だが、本書はそれを超える人気を博したという映画(2000年)の原作。原題を「DMZ非武装中立地帯」という。作者は韓国人の朴商延、本書がデビュー作だがそれ以降の作品についての情報はない。

 

 板門店は南北の境界線上にある中立地帯、南北朝鮮が共同管理する警備区域(JSA)である。交戦中(休戦中だが)の両国が拳銃弾の届く距離で顔を合わせている日常が、そこにはある。本書の原案が懸賞に応募されときには、DMZで両軍兵士が交流するという設定に対し「あり得ない」とされて落選したという。しかし作者は実際にDMZを担当する兵士たちにインタビューして、交流はあると聞いていた。

 

 事件は、板門店北朝鮮側で2人の兵士が撃たれ、ひとりは死亡もうひとりが重傷を負い、韓国軍の兵士金が軽傷を負って境界線上まで逃れて来て倒れているのを発見されたことから始まる。死んだ鄭には13発の拳銃弾が撃ち込まれていたのに、負傷した呉には1発だけ、彼らを撃って反撃されたと思われる金には1発がかすっただけという、不思議な事態である。

 

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 この調査を任されたのが中立国監視委員会のベルサミ少佐、朝鮮語がネイティブ並みに話せることからスイス軍から派遣されていたのだ。実は彼の父親は李慶寿という元北朝鮮軍兵士、朝鮮戦争の折米軍の捕虜となったが筋金入りの戦闘員だった。休戦後第三国への出国を希望し、ブラジルでスイス人の特派員の女性と知り合い結婚、産まれたのがベルサミなのだ。

 

 彼は外見はほとんど東洋人だが、思考は育ったブラジルと国籍のあるスイスのもの。父親の祖国に来て戸惑うことも多い。一方容疑者の金兵曹は、韓国の青年で子供の頃から「早撃ち」に憧れ軍に入隊している。同僚も驚く銃の正確さと早撃ちには、定評がある。

 

 物語はベルサミ少佐の独白で始まり、最後は金兵曹の告白で終わる。映画でどう表現したかは不明だが、金兵曹が訓練中北朝鮮兵士に命を救われ、その後彼らと交流していた。しかし何かのきっかけで撃ち合いになったと思われ、ベルサミ少佐はそれを追求する。小説手法としては、少佐の独白、兵曹の告白が長すぎるなど稚拙との解説は正しい。

 

 しかし半島で何が起きているか知るには、いい教科書でしたね。