新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

シルクロード経済圏構想

 AIIBこと「アジアインフラ投資銀行」は、2013年APECの会場で習大人が設立構想を説明し、本書が出版された2015年に正式に発足している。筆者の真壁昭夫氏は元第一勧銀の銀行マン、第一勧銀総研などを経て信州大学経済学部教授となった人。中国が「シルクロード経済圏構想」の中核と位置づけ、アジア・アフリカ・中東からロシア・欧州までをつなぐためのインフラ整備を支える投資機関AIIBについて、いくつかの懸念を本書で述べている。

 

 アジア・中東・アフリカにインフラ投資が必要なことは多くの人、国が理解している。しかし紛争などのリスクもあり、現実には投資は進んでいない。そこにGDP2位の大国となった中国が主導して投資機関を作ろうというわけだ。しかし日米はじめそのガバナンスや透明性に疑問を持って、参加を躊躇する国も多かった。ところが英国が参加を表明すると欧州各国がこぞって参加、本書発表の時点で57ヵ国が参加表明している。AIIBの役割は、

 

・インフラ開発のための金融支援

・アジア経済圏を牽引するリーダーの育成

 

 の2点。しかしこれは表向きの事で、実際には輸出依存高度成長をしてきた中国経済が曲がり角に来ていて、まず過剰な生産能力(例:鉄鋼)を満たしてくれる需要を求めたというもの。同時にシルクロード関係国への支配力を強めようとするものだ。

 

        f:id:nicky-akira:20210208103916j:plain

 

 日米がこれに警戒感を持つのは、すでに米国主導のIMFや日米で作ったADB(アジア開発銀行)があることも理由になっている。ただIMFギリシア危機などで「支援はするが、資本原理主義的制約で縛ろうとする」との批判もあり、ADBは(日本の財務)官僚的だとの声も聞く。IMFは米国が、ADBは日米が拒否権をもっていることも、中国がAIIBを作った理由だろう。

 

 著者は米国が内政にシフトしていることから過度の米国追従は危ういとして、日本にも(リスクはあるが)AIIBに参加するよう提案している。5年経ってみると、日米は参加せず、参加国は100を超えている。ただ投資案件は思ったほど積みあがらず、AIIBは失敗だったとの声もある。

 

 このころまでは、衣の下に鎧は見えても、中国はまだ低姿勢でした。その後香港問題など「戦狼外交」に転じ、各国の離反を招いています。もう少し低姿勢を続けていたらとは思うのですが、多分そんなことは言っていられない問題が、習大人にはあったのでしょうね。