トランプ先生が「中国ウイルス」と連呼したのをきっかけに、米国で東洋人へのヘイト・クライムが増えてきている。日系・韓国系の人も含めて、生命・財産の危険にさらされているが、これは長く蓄積されてきたプアホワイトたちの不満が噴出したものだろう。このようなことは110年前からあったと、本書にある。米国同様西海岸に増えていた東洋系移民に、カナダの非東洋人が集団で暴行を働いたのが1907年。
安い労働力として入ってきて仕事を奪い、生活習慣も変えず交流もしない移民たちへの不満が爆発、暴徒は中華街などを打ち壊してバンクーバーの日本人街にも迫った。これを投石などで撃退した日系人の中に、野球の経験のある「馬車松」こと宮本松次郎と野球少年たちがいた。
米国に遅れてはいたものの、カナダでもプロ野球が始まり、セミプロ・アマチュアのリーグがいくつもあった。そこに日本人・日系人だけのチームとして殴り込んだのが「バンクーバー朝日」。宮本が監督を務め、ミッキー、テディの2枚の投手と得意技を持った選手たちで、アマチュアの強豪にのし上がっていく。
大柄な白人炭鉱夫のチームと戦うときはバントや盗塁を多用、機動力で相手の剛力を封じた。いわば「スモール・ベースボール」である。小柄な日本人チームが白人たちを打ち負かすさまは、現地で差別や貧困に苦しむ日系人たちを勇気づけた。
アマチュアリーグで優勝するようになり、チームはセミプロリーグの挑戦する。しかしそこでは、思ったように勝てない。そこにやってきたハリー宮本という男は、さらに徹底した「スモール・ベースボール」を考案して選手たちに徹底する。ハリーは肩を壊して速球が投げられなくなったミッキーには多様な変化球を教え、事故で片手を失い内野手が出来なくなったジミーはナックルボーラーとして投手をさせた。2代目監督ハリーの下で、チームはセミプロリーグでの優勝を目指すのだが・・・。
本書の冒頭、2002年にトロントで地元ブルージェイズとシアトル・マリナーズの試合の前に、90歳を越えた「朝日」の選手たちを迎えたセレモニーのシーンがある。マリナーズからは、イチロー・佐々木・長谷川の3選手が彼らを称える役割を果たしている。
100年前の日系移民の苦労やその生きざまを含めて、いろいろ教えられることの多い書でした。今度バンクーバーに行く機会があったら「朝日」のこと、調べてみましょう。